社交不安障害(SAD)とは?症状、原因、診断、治療について
目次
人の注目が集まるような状況に強い不安や恐怖、緊張を感じてしまう人は多くいます。しかし、その程度によっては「社交不安障害」という病気の可能性があります。今回は、社交不安障害の症状、原因、診断、治療などについて解説します。
社交不安障害(SAD)とは
社交不安障害は、人前で発言をしたりする際に必要以上に周囲の目を気にしてしまう病気です。性格的に恥ずかしがりやであるため、人前での発言などが苦手な方は多いと思いますが、社交不安障害の場合は身体的な症状が出てきてしまうようになり、そういった症状が出てしまうことに対する不安を感じ、人が集まる場所自体を避けるようになっていきます。
その結果、学業や就業、結婚等の社会生活に大きな問題を抱えてしまうことがります。
聞き馴染みのある言葉では「あがり症」とも呼ばれます。
有病率
アメリカにおける社交不安障害の12ヶ月有病率は約7%と推定されています。また、世界の大半の地域での12ヶ月有病率は成人と同等です。加齢に従って有病率は減少する傾向にあります。
社交不安症の有病率は男性よりも女性で高く、青年と若年成人でよりはっきりしています。
経過
アメリカのデータでは、社交不安症の発症年齢の中央値は13歳であり、75%の人の発症年齢が8~15歳です。この障害は、アメリカや欧州の研究では、小児期における社会的抑制または内気として表れます。
若年の子どもに比べると、青年は恐怖と回避のより広範な様式を示します。また、より年齢の高い成人では社交不安の表現は軽度ですが、その状況はより多様になります。
社交不安障害の症状
社交不安障害は、人前で注目が集まるような状況で、以下のような身体症状が出てきます。
- 顔が赤くなる・青くなる
- 顔が硬直する
- 汗をかく
- 頭が真っ白になる
- めまい
- 吐き気
- 胃腸の不快感
- 尿が近い、出ない
- 声が震える
- 声が出ない
- 食事が喉を通らない
- 口が渇く
- 息苦しい
- 手足が震える
- 動悸がする
- 字を書こうとすると震えて書けない
また、上記のような症状には「恐怖症」と呼ばれるものがあり、赤面恐怖症、発汗恐怖症、対人恐怖症、場面恐怖症などがあります。
やがてこうした症状がでることに不安を感じる(予期不安)ようになり、症状が出た状況や行為を避けるようになる回避行動が見られるようになります。
社交不安障害の原因
社交不安症の原因として、気質要因、環境要因、遺伝要因と生理学的要因があります。
また、この他にもストレスの強い、または屈辱的な経験(いじめ、人前で話しているときに嘔吐してしまう)が発症の原因となることもあります。
気質要因
社交不安症にかかりやすくさせる潜在的傾向として、行動抑制と否定的評価に対する恐怖が含まれます。
環境要因
小児期の虐待や心理社会的困難の頻度増加は発症の原因とは言えませんが、危険要因ではあります。
遺伝要因/生理学的要因
社交不安症の素因となる傾向、例えば行動抑制は遺伝要因に強く影響されています。
社交不安症は遺伝的であり、第一度親族は発症の確率が2~6倍高いと言われています。
社交不安障害の診断
DSM-5では、社交不安障害の診断基準について以下のように定義されています。
A.他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の赤口場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやり取り(例:雑談すること、よく知らない人に会うこと)、見られること(例:食べたり飲んだりすること)、他者の前で何らかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる
注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間たちとの状況でも起きるものでなければならない
B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)
C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する
注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮み上がる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある
D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる
E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない
F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヶ月以上続く
G.その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
H.その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない
I.その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状ではうまく説明されない
J.他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱傷や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である
該当すれば特定せよ
パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合(出典:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引)
重症度の検査項目
社交不安障害は、M.I.N.I.(The Mini-International Neuropsychiatric Interview/精神疾患簡易構造化面接法)で診断され、その重症度はLSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale/リーボビッツ社会不安障害評価尺度)により評価されます。
M.I.N.I.
精神科でよく用いられる面接形式の診断法です。以下の4つすべてに当てはまる場合、社交不安障害の可能性があります。
- 人から見られたり、注目を浴びたりすることに不安や恐怖を感じる
- その不安や恐怖は、自分でも過剰であり不合理だと思う
- その状況に対し、避けたり我慢したりしなければならないほどの恐怖を感じる
- その恐怖により著しい苦痛を感じ、日常生活に支障をきたしている
LSAS
24項目で構成されており、不安や恐怖、回避行動の度合いを項目ごとに4段階で評価します。その合計点で社交不安障害の重症度を診断します。
併存症
社交不安障害は、他の不安症、うつ病、物質使用障害としばしば併存し、また、限局性恐怖症、分離不安症を除くと、社交不安症の始まりは一般的にそれらの障害に先行します。
社交不安症の経過によって起こる慢性的な社会的孤立がうつ病を引き起こすこともあります。
また、その他にも双極性障害、醜形恐怖症が併存するケースも見られます。
さらに、全般的な型の社交不安症は、しばしば回避性パーソナリティ障害を併存し、こどもの場合は、高機能自閉症と選択性緘黙との併存が一般的です。
→回避性パーソナリティ障害について
→場面緘黙(選択性緘黙)について
社交不安障害の治療
社交不安障害の治療は、薬物療法、精神療法、TMS治療などを組み合わせて行います。
薬物療法
社交不安障害の利用には主にSSRIという抗うつ薬を使用し、脳内のセロトニンのバランスを整えます。だいたい2週間~8週間で徐々に症状が緩和されます。
症状の改善が期待できる薬ですが、副作用もあり、吐き気や食欲不振などが見られます。
精神療法
認知行動療法を用いて、不安や恐怖にとらわれる思考パターンを変えたり、緊張感を和らげることで、回避を軽減する方法が取られます。
薬物療法と組み合わせて実施されることが多いです。
TMS治療
TMS治療は頭部に特殊なコイルを当て、脳に磁気刺激を与えて脳神経のネットワークのバランスを改善し、正常な活動に戻す治療法です。アメリカを始めとする欧米では普及が進んでいます。日本ではまだ一部の医療機関でしかTMS治療を受けることはできませんが、当院では治療が可能です。
薬物療法と比べて副作用の心配もなく、治療期間も短く済みます。
発達障害についても改善することが可能です。
TMS治療について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
まとめ
社交不安障害は内気な性格と混同されがちですが、不安障害という精神疾患の一種です。症状によって学業や仕事に影響が出ることもあります。1人で悩まず、周囲の人に相談して早めに専門機関を受診しましょう。
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