PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?症状やきっかけ、原因について
目次
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、生死に関わるような身の危険に遭遇したり、他者が死傷を負うような場面を目撃することで強い恐怖を感じ、そのトラウマが何度も繰り返し思い出されて恐怖を感じ続けてしまうという病気です。
英語ではPostTraumatic Stress Disorderと表記し、その頭文字を取ってPTSDと言います。
有病率
アメリカで予測されている生涯発症危険率は8.7%と言われています。しかし、アメリカ以外のほとんどの国ではもっと低く見積もられており、0.5~1.0%程度とされています。
世界保健機構(WHO)による世界精神保健調査では、一生のうちでPTSDになる人は1.1~1.6%、その中でも20代~30代前半では3.0~4.1%となっています。
体験の種類によってもPTSDを発症するかどうかは変わってきますが、人に打ち明けにくいような辛い体験(戦闘、レイプなど)では発症しやすい傾向にあります。
経過
PTSDを発症した全員が慢性的なPTSDの症状に悩まされるということではありません。
発症から数ヶ月間で自然回復する人が6~7割程度と言われています。
しかし、WHOの予測ではPTSDは今後増加するとされています。
PTSDの原因となりやすい出来事
PTSDは生死に関わるような危険な出来事を体験したり目撃したりすることで発症します。
また、発症率はその体験の重症度に応じて増加することが知られています。
生死に関わるような出来事に対してどう感じるかは人それぞれですが、具体的には以下のような出来事がPTSDの原因となることがあります。
- 虐待
- 交通事故
- 火事
- 地震
- 津波
- 暴動
- テロ
- レイプ
- 強盗
- 戦争
- いじめ など
世界的に見れば軍人が退役後にPTSDを発症するケースなどが多く知られています。日本では世界の中でも自然災害が多いため、地震や津波などでPTSDを発症している方が多いでしょう。
東日本大震災から10年たった今でもPTSDに苦しんでいる方はたくさんいらっしゃいます。
PTSDになりやすい人
性格的にPTSDになりやすいかどうかという結論は出ておらず、まだ研究段階にあります。
PTSDになりやすいのは、虐待や暴力(特に性的虐待)などの被害を受けた方がなりやすいです。震災などの自然災害もPTSDの原因となることはありますが、家族や近所の方と被害について気持ちを共有することができるため、PTSDを発症せずに済む方が比較的多いです。
一方で、性被害や虐待は周囲の人に被害に遭ったことを伝えることができず、ひとりで苦しむ傾向にあるため、PTSDを発症しやすいとされています。
PTSDの症状(サイン)
PTSDには大きく分けて「再体験」「回避」「否定的感情と認知」「過覚醒」の4つがあります。
再体験
トラウマとなるつらい記憶を、思い出そうとしていないのに何度も思い出してしまったり、そのことに関する悪夢を見てしまう症状です。強い症状はフラッシュバックとも呼ばれ、まさに目の前で当時の状況が再現されているかのような感覚に陥り、周囲の呼びかけに反応しないなどの状態になることもあります。
回避
トラウマとなった出来事を思い出すような場所、物事、人物、会話などを避けようとします。
- 電車で痴漢被害に遭ったため、電車に乗ることを避ける
- 津波で家族を亡くしたため、海に近寄らなくなった
- いじめの加害者を避け、学校に行かなくなった など
こうした回避行動によって行動が制限され、通学時に電車を使えず車での送迎が必要になるなど、日常生活に大きな支障が出てしまうこともあります。
また、重症の場合は自分が体験したことの記憶が抜け落ちてしまっていたりします。
否定的感情と認知
自分や他人、世間に対して過剰に否定的な感情が浮かんできます。
- どうせ私が悪いんだ
- だれも信用できない
- こんな思いにさせる世界が悪い
- 友だちも私のことを嫌っている
こういった負の感情に陥ってしまう時間が長く、何事にもやる気が起きなくなったり、強い孤独感を感じてしまうことがあります。
過覚醒
わずかな音や臭いなどの刺激にも過剰に反応してしまい、眠れなかったり集中できなかったりします。また、常に周囲に対して気を張ってしまうため、心身ともにぐったりと疲れていしまいます。
症状が落ち着いているときもあれば、強く出ることもあります。波形を描きながら徐々に回復していくのが一般的です。
単純性PTSDと複雑性PTSD
PTSDには単純性PTSDと複雑性PTSDの2種類があり、それぞれで対処が異なります。
単純性PTSD
暴力やレイプ・痴漢など、最近受けた一度きりの出来事に由来するPTSDです。
治療効果が現れやすく、薬物療法や心理療法に反応しやすいです。
複雑性PTSD
幼少期からの長期的な虐待、カルト集団によるマインドコントロールなど、長期間繰り返しトラウマになる出来事に遭遇した場合のPTSDです。
複雑性PTSDはまだ研究が進んでおらず、そもそもの定義づけすらされていないのが現状です。
PTSDの診断
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断基準は、概ね以下のとおりです。
A.危うく死亡したり重症を負うような出来事の体験、もしくは目撃している
B.心的外傷的出来事の後に始まる、関連した侵入的かつ反復的な症状の存在
C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避
D.心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化
E.心的外傷的出来事に関連した過覚醒と反応性の著しい変化
F.基準B~Eが1ヶ月以上持続している
災害や戦争、犯罪被害などの強い恐怖をともなう体験が存在していることが診断の前提となっています。
PTSDに多い併存症
PTSDを持っている人は、少なくとも以下のような精神疾患を1つ以上持っているケースが80%以上あります。
- 抑うつ障害
- 双極性障害
- 不安障害
- 物質使用障害
- 素行症 など
この内、物質使用障害(アルコール依存など)や素行症は女性より男性に多く見られます。
また、PTSDと認知症はかなりの併存があることが知られています。
パニック障害や自閉スペクトラム症などではPTSDと似た症状が現れることもあるため、客観的な検査による正確な診断が必要です。
PTSDの治療
PTSDは適切な治療が必要な病気です。大きく分けて「環境調整」「薬物療法」「TMS治療」の3つが選択肢となります。
PTSDはうつ病などの精神疾患を併存することが非常に多いため、PTSDだけの治療を目標にするのではなく、併存する疾患にも目を向けて治療をしていく必要があります。
環境調整
トラウマとなっているものに触れなくて済むように、環境を変えていきます。虐待がある場合は社会資源などを活用してその状況から離れられるようにしたり、ストーカー被害に遭ってPTSDになっている場合は引越しをするなど、根本的にトラウマの原因から逃れることを目指します。
薬物療法
抗うつ薬(SSRIなど)を中心とした薬物療法はPTSDの症状に効果があることが分かっています。
しかし、あくまでも対症療法なので、一時的な症状の緩和を目的として選択されることがあります。少なからず副作用もあるため、医師の指示に従って慎重に進める必要があります。
TMS治療(磁気刺激治療)
うつ症状や不安の症状が強い場合はTMS治療も効果的です。
TMS治療は磁気刺激で脳の特定部位を刺激し、脳機能を正常な状態に戻す治療法で、薬物療法に比べて副作用がほとんどないのがポイントです。
アメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されており、欧米では広く普及し始めています。
日本でも一部の医療機関で導入が進んでおり、当院でも実施しています。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
周囲の接し方
自分の周りでPTSDを発症した人がいたら、しっかりとサポートをしてあげることが重要です。
まずはPTSDという病気について正しく理解をして、症状を悪化させないような接し方を心がけましょう。
PTSDの人への正しい接し方
- 仕事の効率が落ちたり、遅刻や病欠などが多くなるが、それを否定しない
- 突然怒ったり表情が乏しくなったりするため、それを受け入れる
- トラウマについて本人が話そうとしているときは時間を取ってあげる
- 込み入った質問はしない
- とにかく話を聞くことに専念する、遮らない
PTSDの人にはしないほうがいい接し方
- 「その気持ちわかるよ」と安易に同情や共感を示す
- 「これからいいことがあるよ」と無責任な事を言う
- 「その程度でよかったね」と外傷体験を軽視する
- 「しっかりしなさい」と弱さを責めるような発言をする
まとめ
PTSDは誰にでも起こりうる病気ですが、同じ出来事を体験してもPTSDになる人とならない人がいるため、メンタルが弱いという言葉で切り捨てられてしまう事が多いです。
ストレスの感じ方、耐性には個人差があります。適切な治療によって症状は改善できるため、PTSDを疑った場合は早めに精神科や心療内科を受診しましょう。
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