不安障害に有効な森田療法とは?
目次
森田療法という治療法をご存知でしょうか?不安障害を抱える方が対象になる治療法で、約100年前に創始された精神療法です。
今回は、当院でも実際に治療事例のある森田療法について解説し、また当院での森田療法の治療の流れについてもご紹介します。
※現在森田療法は当院では実施しておりません。
森田療法とは
森田療法は、精神科医、森田正馬(もりたまさたけ)(1874~1938)によって創始され、大正時代の1919年に確立された日本独自の精神療法です。
森田療法の元来の治療対象はかつて神経症と呼ばれていた病態で、具体的には
- 強迫症(強迫性障害)
- 社交不安症(社交不安障害)
- パニック症(パニック障害)
- 広場恐怖症(広場恐怖)
- 全般不安症(全般性不安障害)
- 病気不安症(心気症)
- 身体症状症(身体表現性障害)
を指します。また、これらの神経症を森田神経質と呼びます。
これらの多様な症状の背後には、比較的共通の性格傾向が認められます。森田はそのような性格傾向をまとめて神経質性格と呼びました。
神経質性格とは、内向的、自己内省的、小心、過敏、心配性、完全主義、理想主義、負けず嫌いなどを特徴とする性格素質を指します。
このような神経質性格を基盤にして、森田は「とらわれの機制」と呼ばれる特有の心理的メカニズムによって症状が発展すると考えました。
森田神経質になりやすい人
上述の森田神経質になりやすい人の傾向として、森田正馬は「内省的」「執着性」「心配性」「完全主義」という4つの性格タイプを挙げました。
内省的傾向が強いタイプ
自分自身の心の内側をよく省みるような性格や性質の強いタイプです。内省的傾向の強い方に見られる典型的な特徴について以下に紹介します。
- 自分自身に対してストイック
- 自分を大切にしている
- 常に不安がつきまとっている
- 探究心が強い
- 無茶はしない
- 共感力が高い
- 観察力に優れている。
- ナイーブな性格
- 他人に嫉妬心を抱かない
- 上昇思考
こういう自分になりたいという思いが強く、自分への努力を惜しまないタイプの人が当てはまります。
現実の自分と理想像にギャップがあり、葛藤している状態です。
執着心が強い
何事に対しても粘り強く忍耐強いが、物事にこだわりやすく、融通が利かないことが多いタイプが当てはまります。頑固で、自分の流儀、やり方を大切にする人です。
感受性が強く心配性
物事の細部に気遣いをすることができ、人の気持ちを思いやることができるが、不安や苦痛に過敏になり、取り越し苦労をすることが多い。
昨今話題となっているHSPのような気質を持っている人が当てはまります。他者に強く共感するため、自分が経験したわけではないのに悲しい出来事に疲れてしまったりするタイプの人です。
完全を目指しがちな傾向が強い
向上心、完全欲が強く、努力を惜しまないが、完全主義に陥りやすく、不完全であることを許すことができないタイプの人です。
向上心が強いことはメリットでもありますが、完璧を目指すあまり終わりが見えず、いつまで経っても満足できない傾向にあります。
上記にあるような4つの性格特徴のある人が森田神経質になりやすいと言われています。森田によると、このような性格特徴のある人は、不快な感覚を気にすることを契機に、自身が抱え思い悩んでいる症状から抜け出そうと願うがあまり、その結果として悪循環に陥りやすく、さらに不安定になりやすいとされています。
森田療法のとらわれの機制
神経質性格があるかどうかを判断する為には、森田療法では、患者様に「とらわれの機制」があるかどうかを見ていきます。
とらわれの機制には、「精神交互作用」と「思想の矛盾」という2つの機制があります。
精神交互作用
精神交互作用とは、例えば何らかの偶然の機会に心悸亢進(例:心臓の鼓動が早くなるなど)が起こった際、神経質傾向のある人は、それに強い不安を覚え、心臓部に注意を集中させます。
その結果、ますます感覚は鋭敏になり、更に不安感が増大し、より一層の心悸亢進がもたらされます。
精神交互作用とは、このように注意と感覚が悪循環的に作用して症状が増強する機制です。
例えば、職場の上司に叱責された過去の嫌な記憶を思い出すなど、一定の意識対象に注意が向くと強い不安に苛まれ、ぐるぐる思考になる等の悪循環に陥ったりします。
思想の矛盾
「こうあるべき」という考えで自らを縛り付けることで、精神交互作用のような悪循環をより強めていきます。
例えば、「身体の不快な症状はきれいさっぱり無くすべきである」「誰にでも好かれなければならない」「自分は何事においても完璧でなければならない」等という考え方です。
このように、不可能なことを可能にしようといった頭でっかちな考えを持つことを「思想の矛盾」と呼びます。
「こうあるべき」にとらわれることで「こうあるべきことができない」といった自分を責め、それをどうにかしようとあがいたり、必要な状況から回避します。
このような「はからい」により、精神交互作用といった悪循環をより強固なものにし、ますます不快な感情、症状を強めていってしまいます。
森田療法の治療について
森田療法では、精神交互作用といった悪循環を明確にしていくことから取り組んでいきます。そして、その悪循環を打破していくことを治療の第一目標とします。
これまで不安や恐怖感、症状を排除しようとしてきた頭でっかちな構えをやめ、現状抱えている不安や恐怖感などのネガティブな感情と上手に付き合いつつ、目の前にある今やるべき課題など本来しなければならない建設的な行動に着手していくように指導していきます。
森田療法の主要な治療対象である神経症・不安障害等の悩みを抱える人は、不安や症状の有無で一喜一憂する傾向にあります(これを「気分本位」と呼びます)。
森田療法では、そういった気分本位の構えを改め、そういった構えを改善していくことを目指したアプローチを図っていきます。
具体的には、不安などがあっても、必要なこと、やりたいと思っていたことがきちんと行動できたか否かを重視して、そのような状況を随時確認していきます。こういった構えを「事実本位」「目的本位」と呼びます。
上記のような流れで、行動の「実体験」を積み重ねていくことにより、これまで思い悩んでいた不安や症状を取り除くことばかりに費やされていたエネルギーが次第に自分本来の現在なすべき自身の生活場面へと向かっていきます。
その結果、生活が健康的なものになっていき、自然に精神的にも健康的なものに変容していきます。
森田療法での治療目標は、感情などの軽減やコントロールをすることではありません。不安や恐怖等はあるがまま(つまり、そのまま)にしてそれらを受け入れていき、自らの「生の欲望」に従って建設的な行動の範囲を拡大していくことで、「自分らしい」生活の習慣を獲得していくことを目指したサポートをしていきます。
つまり、森田療法は考え方の転換を目指していく治療法であると言えます。
森田療法では、主に不安を持つ人がとらわれている意識などに焦点を当てたアプローチをしていくことで、不安の悪循環からの脱却することを目指していきます。
森田療法は、何と言っても「体験」を重視していきます。自分でやってもらうことが多い療法となります。
その為、森田療法を適用する際には、患者様本人の高い治療意欲や自分で治していきたいという意欲的な構えや成長したい・進歩したい強い動機づけが大切となります。
森田療法の考え方
当院で実施しているTMS治療の顕著な治療効果として「こうあるべき」という思考の改善があります。
発達障害があると、完璧思考になりがちで、こうあるべきと考える思考傾向が顕著に見られます。それぞれ個々人の特性により、個人差などの違いはありますが、その度合いが極端に強い患者様が存在します。
そういった患者様の中には、根底に不安の感情が非常に強く見受けられ、不安障害(例:恐怖症性不安障害、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害等)と診断がなされます。
不安障害は以前、神経症という呼び名で呼ばれておりましたが、現在の精神医学の領域では不安障害という疾患名で呼ばれ、正式な診断名としても使用されています。
上記のような症状を呈する患者様に対して、TMS治療と並行し森田療法を、あるいは森田療法を単独で実施していくことにより、患者様の「こうあるべき」という思考の改善を図っていきます。
思考の改善を図っていくことで、抑うつ状態、ぐるぐる思考、対人恐怖等の二次障害を予防することができます。
森田療法の治療の対象となる方は、内向性、心配性、完璧主義のような性格傾向のある方、また対象疾患としては、先ほども説明した不安障害(例:恐怖症性不安障害、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害など)にあたる方等がおります。
森田療法の治療の流れ
森田療法を活用した治療の流れは以下のようになっています。
※患者様によって個人差がありますが、大まかな流れをご説明致します。
(1)まず今、困っていること・気になっていること・生活の中で行き詰っていることなどを丁寧に伺っていきます。その上で、森田療法の考え方(「とらわれの機制」、不安や症状はコントロールするのではなく上手に付き合うこと、不安と欲求が表裏一体であること、生の欲望の発揮等)を説明し、不安や症状への態度の見直しを図ります。
(2)具体的には不安や症状はそのまま受け入れるようにし、今の生活の中で患者様が出来ることを探し生活の立て直しを図っていきます。
(3)治療の進展には個人差がありますが、面接を重ねるうちにクライエントに森田療法の考え方が身についてきます。例えば、目的本位の態度(気分に左右されず、大事なことを優先的に行う・目的に向けて必要な行動を取る)が出来上がってきます。
(4)行動の変容に向けては、クライエントの不安の背後にある欲求(クライエントがやりたいこと・やりたかったこと、趣味や楽しみなど)を探し当て、欲求充足に向けて一歩踏み出すように勧めます(これを生の欲望の発揮と言います)。
(5)TMS治療と併用している患者様の場合、TMS治療の実施頻度を把握した上でTMS治療効果についても随時確認した上で、森田療法の適用を図っていきます。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。