全般性不安障害とは?症状、特徴、治療、接し方について
目次
何かに対して不安を抱き、気になって夜も眠れない。そんな経験をしたことのある方も多いと思います。
そういった症状は原因となる出来事が過ぎ去れば落ち着くはずですが、次から次へと色々なことに不安を感じてしまい、精神的にも身体的にも不調が続くようなら「全般性不安障害」の可能性があります。
今回は、全般性不安障害の症状や発症しやすい人、診断、治療法について解説します。
全般性不安障害とは
全般性不安障害は、特定の状況に限らず理由がわからない不安や心配が長期間続くことで、精神的、身体的な症状を伴う病気です。
理由がわからない不安というのは、例えば貯金もたくさんあるし仕事も安定しているのに、急に無一文になってしまったらどうしようと悩んだり、大地震が来たらどうしようなどと考えてどうしようもなく心配になって落ち着かないなどです。通常では頭に浮かんでも「そんなに心配する状況ではない」と気持ちをコントロールできるような内容でもコントロールできず、不安になって落ち着かない、眠れないなどの症状につながってしまいます。
こうした症状が長期間(6ヶ月以上)続く場合を全般性不安障害といいます。
全般性不安障害の症状
全般性不安障害は特定のことで引き起こされるわけではありません。人によって理由は様々ですが、家庭問題、会社でのプレッシャー、学校生活、近所付き合いなどから不安を感じる人が多いです。また、地震や台風などの自然災害、交通事故や通り魔などの事件事故など、あらゆるものが不安や心配の対象になります。
上記のような不安から、精神的、身体的な症状が出てきます。
精神症状
- 注意散漫になる
- 記憶力が悪くなる感じ
- 疲れやすい
- イライラする
- 悲観的になりやすい
- 人に会いたくない
- 眠れない など
身体症状
- 頭痛、頭の圧迫感
- 落ち着かない
- 意識が朦朧とする感じ
- めまい
- 寒気、のぼせ
- 全身のドキドキ感
- 筋肉の緊張感
- 便秘、頻尿 など
全般性不安障害を発症しやすい人
男性より女性のほうが1.5~2倍ほど多く発症し、30歳前後の若い女性の発症が多いです。中には10代で発症する方もいます。
女性のほうが多い理由として考えられているのは、生理的要因など男性よりもストレスを感じることが多いからだと言われています。
性格は神経質な人がなりやすいと言われていますが、はっきりとはわかっていません。また、神経伝達物質のセロトニンが関係しているという遺伝的要因やストレスの多い環境などが原因とも言われています。
また、環境的な要因として、子どもの頃の逆境や親の過保護を受けた経験が当てはまります。しかし、こちらも明確な根拠があるとは言い切れません。
全般性不安障害の診断
アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)によれば、全般不安症/全般性不安障害として以下の診断基準があります。
A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰な不安と心配(予期憂慮)が起こる日のほうが起こらない日より多い状態が少なくとも6ヶ月間にわたる。
B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。
C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヶ月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。注:子どもの場合は1項目だけが必要。
- ⅰ落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
- ⅱ疲労しやすいこと
- ⅲ集中困難、または心が空白になること
- ⅳ易怒性
- Ⅴ筋肉の緊張
- Ⅵ睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または落ち着かず、熟眠感のない睡眠)
D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
F.その障害は、他の精神疾患ではうまく説明できない
例:パニック障害におけるパニック発作が起こることの不安又は心配、社交不安症における否定的評価、強迫症における汚染、または他の強迫観念、分離不安症における愛着の対象からの分離、心的外傷後ストレス障害における身体的訴え、醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点の知覚、病気不安症における深刻な病気をもつこと、または、統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容、に関する不安または心配
※日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』より引用
こうした診断を下すために、身体診察を行ったり、症状の原因が身体的な病気や薬の使用によるものではないことを確認するために血液検査を実施することもあります。
全般性不安障害の治療
全般性不安障害の治療には、薬物療法と精神療法を併用するのが一般的です。また、近年新しい治療法としてアメリカで確立し、日本でも一部の医療機関で治療可能になったTMSも有効とされています。
まずは薬物を使用して不安を和らげ、次に精神療法で自分をコントロールできるようにしていきます。もちろん、患者さまの状態によってはどちらかの治療しか実施しないこともあります。
薬物療法
日本では全般性不安障害に対して厚生労働省から承認されている薬はありません。そのため、抗うつ薬や抗不安薬などを用いて治療を行います。薬を使った治療は副作用があったり、アルコールを飲んではいけなかったりと様々な制約があります。
抗うつ薬の代表例
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- 5-HT1A受容体部分作動薬
抗不安薬の代表例
- ベンゾジアゼピン誘導体
- タンドスピロン(セロトニン5-HT1A受容体作動薬)
精神療法
発病の原因が性格や生まれ育った環境にある場合、精神療法が重要になってきます。
カウンセリング、認知行動療法、森田療法などで患者様が無意識に不安に感じているものを探し出し、コントロールできるようにトレーニングしていきます。
薬と違って副作用はないですが、患者様ご自身が治療に積極的に取り組むことや、主治医との相性なども関係してくるため、効果には個人差が大きいです。
TMS治療
TMS治療はアメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)に認可されている治療法で、磁気刺激によって脳の特定部位を活性化させることで脳血流を増加させ、脳の機能を正常にする治療です。
2017年にカナダのクィーンズ大学で全般性不安障害に対して、TMS治療(磁気刺激治療)の比較試験が行われた結果、精神症状や自律神経症状,不眠,認知障害,抑うつ気分などが含まれる評価スコアが改善したという報告がされています。(その報告内容はこちらのリンクから読めます。英語記事です。)
2018年のマサチューセッツ総合病院の報告では、全般性不安障害の不安と不眠の両方の症状に対して効果があったと言われています。特に不眠に効果があったようです。(その報告内容はこちらのリンクから読めます。英語記事です。)
TMS治療は副作用がほとんどなく、治療期間も3~6週間程度と短く済みます。これまで薬物療法や精神療法で効果がなかった方や、副作用などに抵抗のある方はぜひ当院に相談してください。
TMS治療に関してはこちらの詳細記事も参照してください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
全般性不安障害の対処方法
全般性不安障害は生活習慣を整えることで精神の安定に繋がり、結果的にイライラしたりネガティブな感情になることを軽減していきます。そのため、最低限以下の生活習慣を整えるように意識してみましょう。
- 十分な睡眠をとる
- バランスのとれた食事をとる
- 適度な運動をする
- アルコールの摂取を控える
また、不安や心配からくるストレスを軽減するという面では、ある程度時間がかかりますが、以下のような対処も有効です。
- 働き方を見直すための転職
- 人間関係の整理
- リラックス方法の確立
全般性不安障害の人との接し方
全般性不安障害の人は、周囲の人に不安や心配を相談することが多いです。相談を受けたとき、その背景では精神的にも身体的にも不調に苦しんでいることを理解して対応しましょう。謡的には、以下のような点に注意して接することが重要です。
- 気持ちの問題、性格だと決めつけない
- 否定的なことを言わない、できないことがあっても責めない。
- 不安を訴えているときは聞き役に回り、アドバイスではなく自分が味方であることを伝える
- 休める環境を整え、安心感を与える。
- 本人が意識を変えようと努力しているときには褒め、賛同してあげる。
これらのことを意識して接することで、全般性不安障害の人にとって心強いサポートになるでしょう。
まとめ
全般性不安障害は、多数の出来事や活動に対し過剰な不安、心配をする症状を発症し、同時に体調不良も現れる疾患です。しかし、 不安の感情は全ての人がもつ感情であり、疾患であるかどうかを自己判断するのは難しいです。また、慢性化することで治りにくいため、早期から治療することが大切です。そこで、周囲の人もただの心配しすぎだとは思わず、優しく見守り、場合によっては医療機関に相談するよう勧めてあげてください。
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