ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)とは?症状や原因、治療法について
目次
名前を呼んでも反応しなかったり、コミュニケーションが上手く取れなかったり、何かに異常にこだわったりする場合はASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の可能性があります。
今回は、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の症状や原因、治療法について解説します。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)とは
アスペルガー症候群は発達障害のひとつで、こだわりの強さやコミュニケーションに困難を抱えることが多いという特性があります。
アスペルガー症候群という表現は2013年以降は正式な診断名としては使われておりません。現在は「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)」に統一されています。
有病率
米国やそれ以外の諸国において報告されている自閉スペクトラム症の頻度は人口の1%とされており、子ども、成人いずれのサンプルでも同程度です。ただし、ASD診断基準が拡大されたり認知度が高まってきている昨今の事情が反映されているかは不明です。
男性の方が女性の4倍ほど多く発症します。一方で女性のASDでは知的障害を伴うことが多い傾向にあります。
症状の経過
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の発症年齢は、多くの場合生後12~24ヶ月の間に気づかれます。しかし、症状が重い場合はより早く、症状が軽い場合はより遅く気づかれることがあります。
発症を疑われる症状は、言語発達の遅れが目立ち始めることで発覚することが多いです。その他に、周囲の人やものに関心を示さなかったり、呼びかけに反応しなかったりという症状を伴います。
その後、小児期~学童期において最も顕著に症状が現れるようになり、周囲との特性の違いに苦しむことが多くなります。一部のASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)患者は自分の得意分野や特殊な関心を伸ばすことで自立した社会生活を送ることができますが、多くの場合は何らかの支援を受けながら生活していきます。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の症状
ASDには、「社会性の障害」「対人コミュニケーションの障害」「強いこだわり」という3つの代表的な特性があります。基本的に、コミュニケーションを取るのが難しいという特徴があります。
この症状は、子どもにも大人にも共通しています。大人になると多少は改善したり周囲に合わせて行動することができるようになるため、子どもの頃よりは目立たなくなることもあります。しかし、本人にとっては周囲に合わせるのが大きな苦痛やストレスになっていることが多いです。
社会性の障害
- 目を合わせて話すことができない
- 名前を呼ばれても反応しない
- 自分のペースで取り組むため、遅刻などが目立つ
人と目を合わせて話すことが苦手で、自分の名前を呼ばれても反応しないことがあります。小学生くらいから友だちとのコミュニケーションがうまくとれないことが多くなり、場合によってはコミュニケーションが取れないことが原因でいじめに発展することもあります。
対人コミュニケーションの障害
- オウム返しの返事が多い
- 表情から相手の気持ちを読み取れない
- たとえ話が通じない
- 自分の話を一方的にしてしまう
- 冗談が通じない
- 曖昧な表現が理解できない
対人コミュニケーションが困難で、たとえ話や冗談が通じないことがあります。学生の頃だと、友だちに冗談で言われたことをそのまま実行してしまい、トラブルになることもあります。
また、曖昧な表現が理解できず、「多く印刷しておいて」と言われたら必要な枚数の何倍も多く印刷してしまったり、「都合のいいときに声かけて」と上司に言われたら上司が大事な会議に出席しているときでも声をかけに言ってしまうことがあります。
常識的に考えたら分かるだろうということがわからず、周囲との関係が悪化してしまうことが多いです。
強いこだわり
- 決まった順序にこだわる
- 予定が変わると対応できない
- 気持ちの切り替えが苦手
- 好きなことはとことん追求する
ASDの大きな特徴である「強いこだわり」は、様々な場面で見られます。
朝起きてから家を出るまでの順序が完全に決まっていて、それに合わない行動をしてしまったら最初からやり直したり、家から学校や職場までの経路もきっちりと決めていることが多いです。
また、強いこだわりはASDの強みでもあり、興味を持っていることについてはとことん調べたり、技術を磨いたりすることができます。特定の事柄については辞書のように知識を持っていたり、普通の人では到達できないような技術を身につけることができます。そのため、職人やアーティストとして大成する方も多くいらっしゃいます。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の併存症
ASDには様々な併存症があることが知られていますが、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっていると言われています。
併存するもので多いのは、知的障害、ADHD(注意欠如多動性障害)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、抑うつ障害、学習障害などです。
その他にも、てんかんや睡眠障害なども合併しやすいことが知られています。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の原因
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の原因は特定されていませんが、遺伝要因や環境要因が合わさって発症すると考えられています。
また、古くから「親の育て方が悪い」とする声があり、お悩みの親御さんもいらっしゃいますが、育て方はASDの発症原因ではありません。
遺伝要因
現在ASDの遺伝率推定値は双生児一致率に基づいて37~90%の範囲とされています。しかし、具体的にどの遺伝子がASDの発症に影響しているのかという点はわかっておらず、症状によっても関係している遺伝子はことなり、数百程度の遺伝子が関わっている可能性が示唆されています。
環境要因
ASD発症の環境要因として、以下のような要因が挙げられています。
- 両親の高年齢
- 低出生体重
- バルプロ酸への胎児曝露 など
しかし、これらがASD発症に確実に影響するとはいい切れず、まだ研究途中です。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の診断
アメリカ精神医学会のDSM-5では、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について下記のような条件が満たされたときに診断されるとしています。
A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
B.行動、興味、または活動の現地絵された反復的な様式が2つ以上あること(情動的または反復的な身体の運動や会話、同一性や習慣への強いこだわり、特定の事柄に対する強い興味、感覚刺激に対する過敏さや鈍感さなど)
C.症状が発達早期から見られること(社会的要求が能力の限界を超えるまでは症状は完全に明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)
D.症状が原因で社会的、職業的な障害が生じている
E.知的障害や全般性発達遅延ではうまく説明されない
(出典:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引)
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の治療
現在、ASDを根本的に治療できる薬や治療法はありません。ある程度の効果が認められているのは認知行動療法や社会技能訓練ですが、治療法として十分に確立しているという状況ではないのが現状です。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)が改善可能なTMS治療
根本的な治療法はまだ確立していませんが、TMS治療という磁気刺激を使った治療では症状の改善が可能であることが近年の研究からわかっています。
TMS治療によって、こだわりの強さなどの改善が期待できるうえ、ASDと併存することの多い不安や抑うつ、睡眠障害の改善も可能です。
TMS治療について詳しくは以下の記事も参考にしてみて下さい。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の接し方
コミュニケーションが困難で、独特の考えやこだわりを持っているASDの子どもや大人に対しては、その特性を理解して適切に接することで対応できます。
接し方で重要なポイントは、「具体的に伝えること」と「考えや意図もあわせて伝えること」です。以下でその方法をご紹介します。
具体的に伝える
具体的に伝えるためには、「図・写真」や「数字」を使って伝える事が重要です。
- 手順を説明するときは、図や写真を使って目で理解してもらう
- 何かを頼むときは、「この資料を◯枚印刷して」など具体的に数字で伝える
- やってほしいことが決まっているならチェックリストを作る
- 感謝の気持ちを「ありがとうカード」などで形で伝える
こういった工夫をすることで、曖昧な指示を防ぐことができるようになります。
考えや意図をあわせて伝える
ASDの人は、予定していたことが変わってしまうとパニックを起こしてしまうことがあります。そのため、「なぜやるのか」「どういう状態を目指しているのか」「いつまでにやりたいことか」などを都度伝えるようにしましょう。見通しを教えてあげることで、パニックを起こしにくくなりますし、計画的に物事をすすめる手助けにもなります。
まとめ
ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)は発達障害の特性のひとつで、こだわりの強さや対人コミュニケーションの困難が特徴です。
周囲の人は、ASDの特性を理解し、具体的に指示を出したり、感情を形にして伝えたりすることでコミュニケーションが取りやすくなります。
当院ではQEEG検査という脳波検査を用いて客観的なデータをもとにASDの診断を行います。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい。
QEEG検査ついて詳しくは下記のページを参考にしてください。
QEEG検査は脳の状態を可視化し、脳波が、脳のどの位置から、どんなタイミングでどのくらい出ているのかを画像にすることで、脳の各部位が正常に機能しているかどうかを診断することができる検査です。この記事では、QEEG検査について、通常の脳波検査との違い、具体的な検査方法、診断が可能な疾患について精神科医が解説しています。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。