大人のチック症とは?チック症の症状や原因、診断基準について
目次
突然声を出してしまったり、ビクッと動いてしまったりするチック症という病気をご存知でしょうか。子どもを持つ親御さんは聞いたことがあるかもしれません。
チックはほとんどが子どものうちに発症するため、事情を知らないと周囲から好奇の目にさらされ、精神的なダメージを負ってしまうこともあります。
また、大人が発症するチック症は珍しく、なかなか周囲の理解を得られないこともあります。
今回は、チック症の症状や原因、診断について医師が解説し、大人でチック症を持つ方の生活の工夫についてもご紹介します。
チック症とは?
チック症とは、別名チック症候群とも言われます。
まばたきや首振り、咳払いなど、癖のように見えるこれらの行為が断続的に出現するのが特徴の脳と神経の機能障害です。
チックが出る子どもは10人に1~2人くらいと多く、その95%は脳の発達・成長に伴い症状が減少していくといわれています。
日常生活に困難がなく、周囲の人々が受け止めてくれる環境であれば、一般的には治療は不要です。ただし、大人になってもチックが続いたり、治まっていた症状が環境やストレス・緊張をきっかけに再発したりする場合もあります。
近年になって脳と神経シナプスのネットワークバランスが取れていないことで生じる症状であることが分かってきました。また、発達障害の1つとして分類されることも増えてきています。
チックの種類は多種多彩で、首をかしげる、まばたきをするといった単純な動きから、モノに触る、相手の言葉を何度も繰り返すといった複雑な動きを伴うものまであります。チックが起こる部位も様々です。
チック症に共通する症状
音声チック
- アッ、アッなどの奇声がうるさいと言われる
- 気になる人の名前が状況にそぐわない時に出てしまう
- 品のない乱暴な言葉が出てしまうことを心配し、外出をためらう
- 面接や試験の時にチック性の咳払いが出ないか心配になる
運動性チック
首のチック
首を振るチックのせいで肩が凝る
上半身のチック
手の動きのチックで、物を落としやすい
下半身のチック
足をくねらせるチックで、まともに歩けない
チック症の原因は?
チック症は、脳と神経シナプスのネットワークバランスがとれていないために生じる障害です。
いくつかの原因を紹介します。
神経ネットワークのバランスが影響
中脳辺縁系の神経ネットワークのバランス異常が指摘されています。
ハロペリドールという脳から分泌されるドーパミンという神経伝達物質の働きを抑える薬を使用することで、症状が改善すると臨床医学的に証明されています。
遺伝によるもの
チックを起こしやすい体質には遺伝子も関わっていると考えられています。
具体的には、SLITRK1 遺伝子という神経の樹状細胞の発達に関する遺伝子が関連しています。また、HDC遺伝子というヒスタミンからヒスチジンを合成する l-Histidine Decarboxylaseという酵素をコードしている遺伝子も関連していると言われています。
ヒスタミン作動性の神経は後部視床下部に位置していますが、脳の他の部位にも関連しています。
ストレス、ホルモンバランス、環境
チックの症状があった子どもの95%は、成長が進むにつれ、症状が目立たなくなります。
つまり、第二次性徴期を過ぎると症状が落ち着く傾向にあるということです。
しかし、その一方で、月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)に伴ってチックが再発したり悪化するケースや、慢性的な頭痛、腹痛、不眠がチックの症状の程度に影響したと考えられる場合も確認されています。
また、チックは精神的ストレスで症状が変化するため、環境要因も関連していると言われています。
具体的には、親しい人との離別、転職または昇進といった過度の緊張状態をきっかけにチックが出現し、環境に慣れていくにつれて症状が減っていくというような場合があります。
性格的に神経質、繊細な人に出やすい
神経質、繊細な人ほどプレッシャーを強く感じることが多く、チックを誘発しやすいのではないかと言われています。
大人のチック症の原因
大人でチックが出やすくなる原因について解説します。
チック症の診断基準には18歳未満で発症したものという定義があり、大人になって初めてチックが発症するのはとても珍しいです。
大人でチック症が出現した場合は、幼少期に診断されていなかったものが継続・重症化、または再発した場合がほとんどです。また、大人になってから初めて症状が出た場合、以下のような別の病気やその後遺症、薬の副作用の可能性もあります。
- ハンチントン病やウイルス脳炎などの後遺症による脳の中枢神経障害
- コカインなどの薬物使用による副作用
- てんかん、ジストニアなど別の脳神経疾患
さらに、チック症は他の発達障害や強迫性障害などの精神疾患を同時に有している場合が多いという指摘がされています。
チック症は症状が多彩であり、癖との判別も難しく、本人も周囲の人も深刻な問題として扱わずに生活している場合も多々あります。
大人と子供のチック症の特徴
チック症によって生じる困り事で、大人にも子どもにも共通するものとして以下のものが挙げられます。
- 自分の意思では止められない、止めにくい
- 周りの人に障害だと分かってもらえない
- 時には誤解されたり悪意をもたれてしまう
- 苦しいのに援助の求め方が分からない
チック症は学校や仕事を休むほどの症状にならないことが多く、癖と見分けがつけにくいため、「障害」と認知されにくいという特徴があります。
また、「発達障害」や「精神障害」に対する社会の誤解と偏見から、当事者や周囲の人々もチック症の理解や受容が困難になりやすいという面があります。
チック症当事者の一番の困難は、分かりにくい障害であるので誤解や社会から排除される不安を感じるという点です。
チック症の一番効果的な対症法は、ストレス回避とそのための環境調整です。
しかし、大人は仕事上のストレスを慢性的にかかえていると言えます。つまり、チック症の大人はストレス回避を上手くできず、症状が長引きやすくなっています。
そして、それが当事者の困難を更に悪化させてしまっているのです。言葉を変えれば、大人のチック症の困難は社会的な要因もあると考えられます。
チック症の診断
DSM-5による診断基準は以下のようなものです。
注:チックとは、突発的、急速、反復的、非律動性の運動または発声である。
トゥレット症・トゥレット障害
- A. 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。
- B. チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。
- C. 発症は18歳以前である。
- D. この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。
持続性(慢性)運動または音声チック症/持続性(慢性)運動または音声チック障害
- A. 多彩な運動チック、および1つまたはそれ以上の音声チックの両方が、同時に存在するとは限らないが、疾患のある時期に存在したことがある。
- B. チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。
- C. 発症は18歳以前である
- D. この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。
持続性(慢性)運動または音声チック症/持続性(慢性)運動または音声チック障害
- A. 1種類または多彩な運動チック、または音声チックが病期に存在したことがあるが、運動チックと音声チックの両者がともにみられることはない。
- B. チックの頻度は増減することがあるが、最初にチックが始まってから1年以上は持続している。
- C. 発症は18歳以前である。
- D. この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。
- E. トゥレット症の基準を満たしたことがない。
暫定的チック症/暫定的チック障害
- A. 1種類または多彩な運動チックおよび/または音声チック。
- B. チックの持続は最初にチックが始まってから1年未満である。
- C.発症は18歳以前である。
- D.この障害は物質(例:コカイン)の生理学的作用または他の医学的疾患(例:ハンチントン病、ウイルス性脳炎)によるものではない。
- E. トゥレット症または持続性(慢性)運動または音声チック症の基準を満たしたことがない。
チック症を高率に併発する疾患
- 強迫性障害(obsessive-compulsive disorder: OCD)
- 注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivitydisorder: ADHD)
- 学習障害(learning disabilities: LD)
上の図のように、ADHD(注意欠如多動性障害)と併発することが多いとされています。チック症の根底にある発達障害の症状を改善することで、チック症を改善出来ることもあります。
→強迫性障害について
→ADHD(注意欠如多動性障害)について
→学習障害(LD)について
大人のチック症で困ること(職場・日常生活)
チック症の症状は様々で、自分でも予期せぬ動作や発声があるために職場や日常生活で困難を抱えることがあります。
職場での困りごと
- 会議中など、静かにする必要のある場面で唸り声が出てしまう
- 初対面の取引先の前で乱暴な言葉が出てしまう
- 顔をしかめたりにらみつける動作で、相手に誤解を与えてしまう
職場では初対面の方と会う機会が多かったり、相手の話を静かに聴く必要のあるタイミングもあるでしょう。そういった場面でチックの症状が出てしまい、相手に誤解を与えてしまうことがあります。
自分ではどうしようもないため、周囲の同僚の力も借りつつ、相手に誤解を与えないように工夫することが大切です。
日常生活での困りごと
- 手のチック症状で食器などを落としてしまう
- 歯磨きや洗顔中に手が思うように動かず、口を切ったりしてしまう
- 頭を振るチックにより、頭痛や肩こりになりやすい
日常生活でも症状による困りごとは多いです。身体が突然動いてしまうため、ものを壊してしまったり、怪我をしてしまうことが頻繁にあります。
落としても割れない食器を使ったり、手をあまり動かさずに使用できる電動歯ブラシや毛先の柔らかい歯ブラシを使うなどして対策をするようにしましょう。
チック症がある大人の暮らしの工夫
チック症は一時的に激しくなっても時間が解決することもある病気です。
しかし、脳と神経シナプスのネットワークバランスが原因であるため、環境や体調変化によって再発する可能性もあります。以下に、生活上の工夫を3つ挙げてみます。
周囲に理解者を増やす
周囲の人に理解してもらうことで、不安や緊張感を軽減することに繋がるでしょう。
苦しい時に物理的に逃げる場所を作っておく
一人になれる環境をあらかじめ作っておくのも良いでしょう。個別の状況にもよりますが、学校では保健室や空き教室、会社では会議室や備品置き場などを一時避難場所にしてもらったというケースもあるそうです。
リラックス法を決めておく
ストレスをためない工夫や自分に合ったリラックス方法を見つけることで、チック症の軽減、再発防止に役立つでしょう。
大人のチック症、周囲の人にできること
チック症について理解を深める
チック症の特徴的な言動の繰り返しに対し、戸惑いや苛立ちを覚えるかもしれませんが、故意や悪意を伴った行為ではないということを念頭に置きましょう。
日常生活では「温かい無視」をする
「温かい無視」とは、症状を理解した上で見て見ぬふりをするということです。症状の変化に対して過剰な反応はせずに、チックは当事者の特徴の一つであり時間と共に消失するものだと受け止め、当事者への支援をしていきましょう。
手助けをいつでもできるようにしておく
大人のチック症は認知度がまだ低いため、周囲のひとがなかなか理解できないのと同様に、当事者自身が気づいていない・受け止められず苦しんでいる場合もあるため、気軽に相談に乗るなどの支援も大切です。
まとめ
チック症のほとんどは子どものうちに発症するものですが、まれに大人になってから発症したり、再発したりすることがあります。
子どものチック症は成長とともに症状が落ち着いていき、完全になくなることがほとんどですが、大人のチック症の場合は環境によっては長引いてしまうこともあります。
周囲の人間の理解があれば特段治療をしなくてはいけないものではないため、本人が症状を把握して対処法を見つけたり、周囲の人がいい意味で「気にしない」ことが重要です。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。