
境界性パーソナリティ障害の意外な真実【医師が分かりやすく解説】
目次

うつや不安障害、不眠、摂食障害、依存症などの背景にに、境界性パーソナリティ障害が存在しているケースも少なくありません。ここでは最新の知見を元に境界性パーソナリティ障害に関して説明していきます。
境界性パーソナリティ障害の疫学
境界性パーソナリティ障害の方がどれ位いるのかについて説明します。
決して稀な障害ではなく、20~30代に多くみられます。
データから意外に多いと思われた人もいると思います。
境界性パーソナリティ障害と他の精神疾患との合併率
他の精神疾患との合併率は非常に高いです。
境界性パーソナリティ障害の特徴
境界性パーソナリティ障害の症状
①見捨てられることへの不安が根底にあります。
幼少期に「親から見捨てられるのではないか」という恐れを感じ、成長しても、心の根底には「見捨てられることへの不安」が常にある状態です。幼少期に見捨てられたという体験がほとんどないことも特徴の1つです。
②自分の中にいろいろな自分がいる感じがします。
「大人の自分」と「幼い自分」、「良い自分」と「悪い自分」の両極端な自分像が存在し続けます。健康な人は、これらは成長過程で一体化すると言われています。
③問題行動が多発して、周囲が巻き込まれてしまいます。
激しい感情に駆られ、衝動的に様々な問題行動を起こしてしまします。言葉にできない感情を、激しい破壊的な行動で表現するのが特徴です。
④人をひきつけようとして人間関係を混乱させてしまいます。
相談を持ちかけたり、周囲の人間関係をこじらせるような話をしたりすることなど、自分に同情してくれる人を常に側に引きつけておこうとします。
境界性パーソナリティ障害の症状に関する最新の知見
境界性パーソナリティ障害の方は、相手の表情を「怒りの表情」と読み取りやすく、相手のどのような表情にも過剰な反応を起こしやすい事が明らかになっています。
一般の人と幼児期に虐待を受けた境界性パーソナリティ障害の人を集め、「怒りの表情」と「悲しい表情」の混在した表情からどちらの感情を読み取るか?という研究がなされました。
一般の人(実線)は悲しみの表情を読み取るが、幼児期に虐待を受けた境界性パーソナリティ障害の人(点線)は怒りの感情を感じ取りやすいことが分かります。
(PNAS June 25, 2002 99 (13) 9072-9076)
境界性パーソナリティ障害(BPD)患者は相手の表情を捉える時に、扁桃体が過剰反応します。
扁桃体は警戒心をコントロールしたり、負の感情を生み出すのに重要な役割を担っている脳の部位である事が分かっています。
境界性パーソナリティ障害(BPD)患者は一般の人に比べて、相手の表情を認識する時に、左の扁桃体が過活動を起こしていることが明らかになりました。
(Biol Psychiatry.54, 1284-93 , 2003 )
境界性パーソナリティ障害(BPD)の人が、相手のちょっとした対応に過剰に反応する事があります。
過剰に反応するという特性は、扁桃体の過活動によってもたらせれているのです。
扁桃体が過活動を起こしているために、どのような表情に対しても過剰に反応しやすく、必要以上に配慮しなければなりません。
境界性パーソナリティ障害の診断
わが国の日常臨床では、境界性パーソナリティ障害の診断をくだす際にDSM – 5 がよく用いられます。
境界性パーソナリティ障害の診断基準 (DSM – 5)
対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。
①現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
②理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
③同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
④自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
⑤自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
⑥顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
⑦慢性的な空虚感。
⑧不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
⑨一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)より
反社会性パーソナリティ障害と発達障害との関係性
成人してから反社会性パーソナリティ障害と診断されることは、ADHD(注意欠陥多動性障害)を患っている場合に高くなります。
ADHD(注意欠陥多動性障害)の人は通常より20倍近く境界性パーソナリティ障害を合併しやすいことが報告されています。
(https://www.nature.com/articles/s41380-018-0248-5#Sec17)
境界性パーソナリティ障害の治療
カウンセリング療法
カウンセラーが患者さんの心理面に働きかけ、患者さんの認知、思考、行動パターンなどの偏りを改善し、少しずつ社会に適応できるようにしていく治療法です。
TMS治療(磁気刺激治療)
パーソナリティ障害自体にTMS治療(磁気刺激治療)が有効であったという論文が2019年に発表されています。
(J Psychiatr Pract. 2019 Jan;25(1):14-21.)
2016年にもTMS治療(磁気刺激治療)が感情や衝動性のコントロールに有効であったという報告があります。
(Front. Hum. Neurosci., 05 December 2016)
パーソナリティ障害に合併しやすい発達障害も改善することが可能です。
境界性パーソナリティ障害の薬物療法の問題点
①薬の効果の評価が難しい
②多剤併用,不適切な長期投与が多い
③薬物の効果は一時的/部分的なので、不必要な漫然・長期使用を減らすことで、オーバードーズや薬物乱用を防ぐ事が出来ます。
④コンプライアンス不良が多い
境界性パーソナリティ障害において使用を控えるべき薬剤
三環系抗うつ薬のアミトリプチリンは関係念慮・衝動性の増悪、ベンゾジアゼピン系のアルプラゾラムは衝動性の増悪、ADHDの治療薬のメチルフェニデートは気分変調の増悪、思考の混乱・精神症状尺度 (BPRS)増悪が指摘されています。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬や中枢刺激薬であるメチルフェニデ-トの使用を控えることが望ましいです。
境界性パーソナリティ障害における大量服薬による致死性不整脈
抗うつ剤の投薬は、 過量服薬をしてしまう可能性も考慮して処方をすべきです。
過量服薬をした場合は、心室性頻拍(VT)やトルサード・ド・ポアンツ(Torsades de pointes)といい、QT 時間の延長を伴っていることが多いです。
境界性パーソナリティ障害に対する睡眠薬・抗不安薬の問題点
衝動や感情を抑えることが不能な脱抑制の状態になり、自分の中で抱いていることを、衝動的に実行に移してしまうことがあります。
日中の眠気や白昼夢、自分の体が自分の一部のような気がしなくなる解離症状が見られる事があります。
境界性パーソナリティ障害に対するSSRIなど抗うつ薬による中枢刺激症状
SSRIやSNRIの投与初期や増量時に、「不安、焦燥、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意 、衝動性、アカシジア、軽躁状態、躁状態」の10症状が見られる事があります。
境界性パーソナリティ障害の患者はこのような賦活症候群(アクチベーション・シンドローム:Activation Syndrome)に発展するリスクが通常より高く注意が必要です。
賦活症候群(アクチベーション・シンドローム)を放って置くと、リストカットや自殺に発展することもあり、非常に危険なので、症状が出たら薬剤の中止や減量をしなければなりません。
境界性パーソナリティ障害の経過や予後
自傷行為や過量服薬、社会的規範から逸脱した逸脱行為は2年ほどで収まる事が多いです。
しかし、空虚感や孤独感などは、時間が経過してもなかなか治らないことがほとんどです。
(Am J Psychiatry. 2007 Jun;164(6):929-35.)
境界性パーソナリティ障害と診断された165名を観察研究すると、15年後には診断基準を満たす患者は25%に減っており、27年後では8%へと更に減っていました。
自殺率は10%と非常に高いです。
(Compr Psychiatry. 2001 Mar-Apr;42(2):144-50.)
境界性パーソナリティ障害の特性は、不眠症を介して、自殺リスク増加に寄与している事が示唆されました。
(Compr Psychiatry. 2001 Mar-Apr;42(2):144-50.)
医師の主観ではなく、客観的なデータで診断
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)

治療前と治療後のQEEG検査結果の変化

人工知能(AI)を用いて、ディープラーニング(深層学習)することで、様々な脳の状態を統計学的に把握することが出来るようになりました。
5歳から高齢者(大人)まで幅広い年齢層の方に対してQEEG検査の結果に即した、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案する事も可能です。
客観的指標のない精神科領域において、欧米では非常に需要のある検査法です。