限局性恐怖症の症状、診断、治療について
目次
高いところが苦手だったり、狭いところが苦手だったり、「〇〇恐怖症」と言われる人々はかなり多くいます。実は、そういった症状は限局性恐怖症という不安障害の一種です。
今回は、限局性恐怖症の症状や診断、治療についてご紹介します。
限局性恐怖症とは
限局性恐怖症とは、特定の対象または状況に対して顕著な恐怖や不安を感じる障害です。
大人の場合はその状況を積極的に避けたりします。子供の場合は泣いたり癇癪を起こしたりして表れることがあります。
有病率
恐怖症は馴染みがある方も多いため、有病率も高いと思っている方が多いと思います。しかし、DSM-5の診断基準で限局性恐怖症の有病率はそこまで高くはありません。
米国では、一般市民の限局性恐怖症の12ヶ月有病率は7~9%と見積もられています。また、欧州諸国での有病率は、米国の有病率とおおむね同様ですが、アジア、アフリカ、南米諸国では2~4%とされています。
子どもの有病率は約5%で、13~17歳においては約16%となっています。
恐怖刺激の違いによって変わりますが、男性より女性のほうが高頻度に罹患するとされており、男性:女性=1:2の比率で罹患します。
また、動物、自然環境、状況の限局性恐怖症は圧倒的に女性に多く見られます。
原因
他の不安障害と同様に、本人の性格的な特質が原因となっている場合(気質要因)や、環境要因、遺伝要因もあると言われています。
気質要因
否定的感情や行動抑制といった気質的特性が関係している事があります。行動抑制とは、見知らぬ人物や新しい環境などを避けようとする特性です。HSPやHSCに近い特性です。
環境要因
親の過保護によって自分から新しい環境を経験してこなかった場合や、親の喪失や分離、身体的または性的虐待などを経験している場合は、限局性恐怖症の発症要因になります。
また、恐怖の対象や状況との否定的な、心的外傷をもたらす出会いも限局性恐怖症の発症に先行することがあります。
恐怖の対象との否定的出会いというのは、例えば猫に近づいたら引っかかれて怪我をした→猫恐怖症になるなどを指します。
遺伝要因
例えば動物恐怖症の親族がいる場合、他の方の恐怖症より優位に高率に同種の限局性恐怖症が見られる傾向があるかもしれないと言われています。
経過
恐怖症の多くは、以下のような場合に発展することがあります。
- 心的外傷的出来事を経験する
動物に襲われる、エレベーターに閉じ込められる など - 他者が心的外傷的出来事を経験するのを見る
誰かが溺れたのを目撃する など - 恐怖される状況下で起こった予期しないパニック発作
電車の中での予期しないパニック発作 など
しかし、限局性恐怖症を持つ人は恐怖症の発症について、特定の理由を思い出すことができないことが多いです。
通常小児期早期に始まり、多くは10歳前に発症します。状況性の限局性恐怖症は、自然環境、動物、または血液、注射、負傷より発症年齢が遅い傾向があります。
また、成人期まで持続した恐怖症は大多数の人で寛解しない傾向があります。
小児期や青年期にほとんどの限局性恐怖症は発症しますが、どの年齢においても発症の可能性はあり、多くの場合それは外傷的な経験の結果として生じます。例えば窒息の恐怖症は窒息に近い出来事のあとに生じることが大半です。
限局性恐怖症の症状
限局性恐怖症の場合、特定の対象または状況において、即時恐怖や不安を感じます。
また、その恐怖や不安の程度が実際の危険性に釣り合っていません。たとえば、閉所恐怖症の場合、エレベーターに乗ると「閉じ込められてしまうのではないか」という恐怖で震えたり足がすくんだりするため、どんなに高い建物でも階段を使うなどの行動を取ります。
限局性恐怖症の診断
DSM-5では、限局性恐怖症の診断基準は以下のように定義されています。
A.特定の対象または状況(例:飛行すること、高所、動物、注射、血)への顕著な恐怖と不安
注:子どもでは、恐怖や不安は、泣く、癇癪を起こす、凍りつく、または、まといつく、などで表されることがある
B.その恐怖の対象または状況がほとんどいつも、即時、恐怖や不安を誘発する
C.その恐怖の対象または状況は、積極的に避けられる、または、強い恐怖や不安を感じながら耐え忍ばれている
D.その恐怖または不安は、特定の対象や状況によって引き起こされる実際の危険性や社会文化的状況に釣り合わない
E.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヶ月以上続いている
F.その恐怖、不安、または回避が、臨床t系に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
G.その障害は、(広場恐怖症に見られるような)パニック様症状または他の耐えがたい症状;(強迫症に見られるような)強迫観念と関連した対象または状況;(心的外傷後ストレス障害に見られるような)心的外傷的出来事を想起させるもの;(分離不安症に見られるような)家または愛着を持っている人物からの分離;(社交不安症に見られるような)社会的場面、などに関係している状況への恐怖、不安、および回避などを含む、他の精神疾患の症状ではうまく説明されない
(出典:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引)
他の障害との鑑別
限局性恐怖症の症状は、他の精神疾患と似ている事があります。以下に鑑別のポイントを表にまとめました。
障害名 | 限局性恐怖症との違い |
広場恐怖症 |
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社交不安症 |
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分離不安症 |
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パニック症 |
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強迫症 |
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心的外傷およびストレス因関連障害群 |
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摂食障害群 |
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統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群 |
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限局性恐怖症の治療
一般に、限局性恐怖症の治療には曝露療法が用いられます。また、パニック症状や不安症状が強い場合はTMS治療(磁気刺激療法)も有効です。
曝露療法
曝露療法は、対象者をパニック発作の引き金となっているものに徐々に繰り返し向き合わせ、不安を誘発する状況下でも十分に安心していられるようになるまで繰り返します。
一般的な方法としては、恐怖の対象に10段階(もしくはそれ以上)で点数をつけ、一番恐怖が少ないものから順に慣れていき、恐怖を感じることがなくなったら次に簡単なものに挑戦していくというものがあります。これを繰り返して恐怖を感じなくなるまで続けていきます。
曝露療法は、忠実に行った人の90%以上で効果が見られます。
薬物療法
薬物療法は限局性恐怖症に対してほとんど効果がありませんが、例外的にベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬)を使用することがあります。
たとえば、飛行恐怖症の人が飛行機に乗る前に服用するなどです。恐怖症自体はなくなりませんが、飛行機に乗ること自体はできるようになります。
TMS治療(磁気刺激療法)
TMS治療は頭部に特殊なコイルを当て、脳に磁気刺激を与えて脳神経のネットワークのバランスを改善し、正常な活動に戻す治療法です。アメリカを始めとする欧米では普及が進んでいます。日本ではまだ一部の医療機関でしかTMS治療を受けることはできませんが、当院では治療が可能です。
特定の状況下での息苦しさ、動悸、人前での緊張など、不安感や恐怖症状にもTMS治療は有効です。
TMS治療について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
まとめ
限局性恐怖症は多くの人が症状自体は知っている障害ですが、治療するものではないと思っている方が多いのも事実です。雷恐怖症など、極めて限定的な恐怖症の場合は治療は必要ないかもしれませんが、エレベーターに乗れない、通勤で使う橋が渡れないなど日常生活に影響が出ている場合は治療をおすすめします。
周囲の方は、限局性恐怖症が治療によって良くなるものであることを伝えてあげて、本人が少しでも安心して過ごせるようにサポートしてあげるようにしましょう。
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15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。