回避・制限性食物摂取症の症状、原因、診断、治療について精神科医が解説
目次
食に関心がなく、痩せたいとは思っていないけど痩せてしまったり、体調が悪くなってしまうほど栄養を摂取できないという人は、回避・制限性食物摂取症の可能性があります。
今回は、回避・制限性食物摂取症の症状や原因、診断、治療について解説します。
回避・制限性食物摂取症とは
回避・制限性食物摂取症は、摂食障害の一種です。極度の偏食で、毎日決まったものしか食べなかったり、食事の量をごく少量にしたりすることで、体重が大きく減少したり、十分な栄養が取れていない症状があります。
食べ物が手に入らない環境や、文化的な慣習による特定の食物の忌避などがある場合は当てはまりません。例えばヒンドゥー教徒が牛肉や豚肉を口にしないからといってこの障害とは診断されません。
有病率
一般に、幼児や小児の15%~35%には、一時的にでも食行動の問題があると言われています。
スウェーデンで行われた研究では、食行動に問題のある子どものうち、0.6%に制限性食物摂取症が見られました。
幼児期、小児期早期には男児にも女児にも同じように見られます。
一方で、自閉症スペクトラム症に合併する回避・制限性食物摂取症は男性優位という報告があります。
また、妊娠中の女性が特定の食物を回避したり制限したりすることがありますが、通常は重篤な症状にはならず、後述する診断基準を満たすことはほとんどありません。
経過
回避・制限性食物摂取症は多くの場合幼児期および小児期早期に発症し、成人期まで続くことがあります。
また、特定の食物を食べたあとに嫌悪すべき結果が生じることへの不安からの回避は何歳でも起こりうるものです。食べたあとの口内の感触が嫌であったり、過去にその食物を食べたあとに嘔吐をしてしまったなど、そういった経験がある場合です。
回避・制限性食物摂取症がその後の摂食障害につながるという証拠は現在十分ではないです。
回避・制限性食物摂取症の症状
症状は食に対する明らかな無関心や食物の感覚的特徴に基づく回避です。しかし、それが痩せ願望や太ることへの恐怖などから発生していないという特徴があります。
具体的な症状としては以下のとおりです。
- 具合が悪くないのに食事を拒否する
- 極端な偏食で、特定のものしか食べない
- 食べ物の外見や色、食感などへの感受性が強い
- 食べたあとのことに不安がある(嘔吐してしまうのではないか、など)
- 食事中にイライラしている
回避・制限性食物摂取症の原因
幼児または年少の子どもの場合には、ネグレクトを受けていたり、ストレスの多い生活環境に置かれていたりする心理社会的問題、親子関係の問題が発症の環境要因となりえます。
また、口を閉じているのに無理やり食べさせたり、飲み込む前に食物を口に入れたりするなど、親の食べさせ方が原因になっているケースもあります。
その他、気質要因として不安症群、自閉スペクトラム症、強迫症、ADHDは回避・制限性食物摂取症になるリスクを高めることがあります。
回避・制限性食物摂取症の診断
DSM-5では、回避・制限性食物摂取症の診断基準について以下のように定義されています。
A.摂食または栄養摂取の障害(例:食べることまたは食物への明らかな無関心;食物の感覚的特徴に基づく回避;食べたあと嫌悪すべき結果が生じることへの不安)で、適切な栄養、および/または体力的要求が持続的に満たされないことで表され、以下のうち1つ(またはそれ以上)を伴う:
- 有意の体重減少(または、子どもにおいては期待される体重増加の不足、または成長の遅延)
- 有意の栄養不足
- 経腸栄養または経口栄養補助食品への依存
- 心理社会的機能の著しい障害
B.その障害は、食物が手に入らないということ、または関連する文化的に容認された慣習ということではうまく説明されない
C.その摂食の障害は、神経性やせ症または神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、自分の体重または体型に対する感じ方に障害を持っている形跡がない
D.その摂食の障害は、随伴する医学的疾患によるものでなく、または他の精神疾患ではうまく説明できない。その摂食の障害が他の医学的疾患または精神疾患を背景として起きる場合は、その摂食の障害の重症度は、その状態または障害に通常関連するような摂食の障害の重症度を超えており、特別な臨床的関与が妥当なほどである
(出典:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引)
他の疾患との鑑別
反応性アタッチメント障害
引きこもりによって養育者との関係に障害が生じ、栄養摂取や摂食に影響することがあります。回避・制限性食物摂取症の診断基準をすべて満たす場合は回避・制限性食物摂取症も同時診断されることがあります。
自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症のある人には、融通の効かない摂食行動及び感覚過敏が見られることが多いですが、その程度は、回避・制限性食物摂取症と診断される強さとは限りません。
限局性恐怖症、社交不安症、その他の不安症群
特定用語を伴う限局性恐怖症では、窒息や嘔吐を引き起こすかもしれない状況を特定し、診断に必要な恐怖、不安、または回避を誘発する最初の誘引を示すことができます。
窒息または嘔吐への恐怖が食物の回避を引き起こしている場合は回避・制限性食物摂取症との区別が難しいことがあります。
神経性やせ症
体重増加や肥満することへの恐怖、体重増加を妨げるような持続した行動、自分の体重および体形についての知覚および体験に関する特異的な障害がある場合、回避・制限性食物摂取症ではなく神経性やせ症と診断されます。
強迫症
強迫症の人は、食物へのとらわれまたは儀式的な摂食行動と関連して、摂取を回避したり制限したりすることがあります。
両障害の診断基準をすべて満たし、異常な食べ方が特別な介入を要する臨床症状の主要な側面となる場合にのみ、回避・制限性食物摂取症は同時診断されます。
うつ病
うつ病では気分の問題によって食欲の減退が見られ、食物の摂取が著しく制限されることがあります。両障害の診断基準をすべて満たし、摂食の障害が特別な治療を要する場合にのみ、回避・制限性食物摂取症は同時診断されます。
統合失調症スペクトラム障害群
統合失調症や妄想性障害などを持つ人は、奇異な摂食行動をとることがあります。妄想的信念から特定の食物を回避したりします。両障害の診断基準をすべて満たし、摂食の障害が特別な治療を要する場合にのみ、回避・制限性食物摂取症は同時診断されます。
回避・制限性食物摂取症の治療
回避・制限性食物摂取症の治療には、認知行動療法が用いられることがあります。食べるものに対して患者が感じている不安を和らげるのに役立ちます。
また、幼児の回避・制限性食物摂取症に対しては養育者への教育が行われることもあります。子どもの体力や持久力、生物学的リズムに合わせた食事の時間設定や、食事の際の接し方の指導(食べないことを叱るのではなく、食べたことを褒めるなど)をします。
また、回避・制限性食物摂取症の背景に知的能力障害や発達障害がある場合、それらの治療を行うことで症状が改善されることがあります。
発達障害の治療には薬物療法、精神療法、TMS治療(磁気刺激治療)があります。
TMS治療とは
TMS治療は頭部に特殊なコイルを当て、脳に磁気刺激を与えて脳神経のネットワークのバランスを改善し、正常な活動に戻す治療法です。アメリカを始めとする欧米では普及が進んでいます。日本ではまだ一部の医療機関でしかTMS治療を受けることはできませんが、当院では治療が可能です。
薬物療法と比べて副作用の心配もなく、治療期間も短く済みます。
発達障害についても改善することが可能です。
TMS治療について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
まとめ
回避・制限性食物摂取症は幼児や子どもに多く見られる摂食障害です。誰しも食べ物の好き嫌いはありますが、極度の偏食によって栄養不足や体重減少が見られると、その後の発達にも影響を及ぼします。お子さんの摂食行動に不安を感じる親御さんは、専門機関の受診をおすすめします。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。