発達障害と合併しやすい場面緘黙とは?【医師が分かりやすく解説】

場面緘黙とは?

場面緘黙(かんもく)とは、発声器官には異常がなく、言語能力があるのにもかかわらず、特定の場面などでしゃべることができなくなってしまうことを場面緘黙といいます。
2014年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計のマニュアル』第5版) におきまして、場面緘黙症は不安障害の一つであるとされております。
5歳前後で発症することが多いといわれております。
場面緘黙は、自分自身で話す場所を選んでいるのではありません。特定の場面になると、どうしても話すことができないのです。

場面緘黙の特徴

場面緘黙は、子どもが、学校などの特定の場面で話せなくなることです。
家庭では問題なく流暢に話せていても、学校の先生から「お子さんは学校で会話をしません」と言われて、初めてその症状に気付き、驚かれるご家族の方も多くいます。
場面緘黙がある子どもはわざと話さないということではありません。
周囲にはそのように誤解されやすいのですが、場面緘黙がある子どもは不安や緊張があるため話せないのです。
また時間が経過すれば自然と治ることがありますが、大人になっても緘黙が残ったり、また大人になってから発症することもあります。
大人の場面緘黙の認知度は子どもの場面緘黙よりさらに低く、あまり知られておりません。
大人が発症する場合、既往歴をみると子ども時代に発症している場合がほとんどですが、子ども時代の緘黙に関して、はっきりとした自覚症状がない大人もいます。

場面緘黙の原因

場面緘黙は一つの要素が原因で生じる状態ではありません。
影響している要素には人によってさまざまで、いくつかの要素が複雑に絡み合って生じます。
場面緘黙が生じやすい要因としては主に以下の項目が挙げられます。

扁桃体の過活動

一般的に繊細で感じやすい、何かに慣れるのに時間がかかる、人見知りが激しいなどの傾向を持った子どもがいたりします(赤ん坊の時にそのような傾向があった子どもも含みます)。
上記の繊細な子どもは、集団行動や対人関係において他人に対して慎重な態度をとる、目立つことが苦手、新しい環境に馴染むのに時間がかかってしまうという傾向があります。
繊細さはどこから生まれるのでしょう。その多くは先天的な脳のはたらきが原因であると言われております。
原因には、危険に反応する脳の一部「扁桃体」が大きく関係しているのではないかという研究仮説があります。場面緘黙がある子どもは、脳の扁桃体が刺激に対して過敏に反応してしまいます。この気質を持った子どもは危険の感じ方が、普通の人より過敏で繊細ゆえに、小さな刺激に対して大きな不安を感じてしまうといわれています。
そのため、お家などのリラックスできる不安の少ない環境では話せるのに、人が集まる学校などでは些細なことでも不安を感じやすく、行動を抑制してしまうことから話せない状態になっているのではないかとみられています。

発達障害

場面緘黙がある子どものなかには、ことばの発達の遅れや発達障害などが原因となっている場合があります。
  • ・感覚過敏(光や音に敏感、食べ物や衣服に好き嫌いが激しくあるなど)
  • ・物事の受け捉え方や考え方に偏りがある
  • ・ことばの意味の理解に時間がかかる、単語を思い浮かべたり文章構成に時間がかかる
  • ・発達障害の特性
  • 言語の理解の問題

    およそ3分の1の緘黙の子供には話しことばや言語の問題があるといわれています。
    家庭より複雑で高度なコミュニケーションが必要な会話が難しいと感じる子どもがいます。
    バイリンガル環境におかれている子どもに場面緘黙が発症するのもこの理由が考えられます。

    環境やストレス

    緘黙の発症に関わる環境の要素は、『場所』の問題だけではありません。
    その環境が継続、断続的だったのか、一回、複数回の出来事だったのかなど、原因が異なります。
    子どもの主観的な体験がどうだったのかという視点で考えることが必要だといわれております。 場所に関係する原因、クラスメイトとの人間関係や、心身への危害などさまざまな原因が挙げられます。
  • ・急激な環境の変化(転校やクラス替え、引っ越しなど)
  • ・恐怖や失敗、辛い体験(いじめ、病気やけが、傷つくことを言われるなど)
  • 以前は過保護、無関心な態度など、育て方が場面緘黙の原因になると、家族要因に結び付けた研究も多く発表されていましたが、近年では育て方による説は撤回されており、発達障害の特性によるものが多いとされています。

    発達障害と場面緘黙について

    場面緘黙は、教育分野や行政政策の上では場面緘黙は発達障害者支援法の対象になっております。
    実際のところ、場面緘黙がある子どものうち、発達障害が原因で場面緘黙の発症に影響したと考えられる子どももいます。
    場面緘黙は発達障害と併発しやすいととらえたほうが、場面緘黙がある子どもの未来を考える上で有効です。
    2000年にアメリカの学会でクリステンセンが発表した説によると、『発達上の問題の併存も多い』といわれ、コミュニケーション障害、発達性協調運動障害、軽度精神発達遅滞、アスペルガー症候群などとの併存が多いようです。
    J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 39:249-256,2000.

    発達障害の二次障害としての場面緘黙

    発達障害は見た目にわかる障害ではありません。早期発見・治療が大切であるとされておりますが、見過ごされることも多くあります。
    発達障害があるもしくはその疑いがある子どもに対して、環境などの適切な対応がされなかった場合、その子にとって受け入れられない問題が生じて、場面緘黙になる場合もあります。
    子どもの特性が理解されずに、失敗を繰り返し、自己評価を下げることへとつながります。このような場合、場面緘黙の症状に限って対応しても、改善がみられないことがあります。

    大人の場面緘黙の原因

    場面緘黙の状態が成人しても続くことがあります。
    大人の場合でも、子どもの場合と同じく話さないのではなく話せない状況のことをいいます。
    場面緘黙は子どもの頃に発症することが多く、早期発見、支援が大切だといわれていますが、まだあまり世間的に知られていないということもあり、適切な支援をうけられなかったことが少なくありません。
    大人の場面緘黙の原因は、子どもの頃に発症し、それが継続または再発する場合がほとんどです。
    子どもの頃の場面緘黙について自覚症状がないことや、見過ごされていた場合もあります。 成人後も場面緘黙の症状に苦しむ人、症状が軽減された後も会話が苦手としている人もいます。

    子どもの場面緘黙の早期発見、対応の重要性

    今までは場面緘黙は時間がたてば治る、自然と話せるようになると誤解され、症状があっても特に対応せず、場面緘黙を放置するということがありました。
    現在、日本では自然に治るという対応は適切ではないとし、早期発見、治療が重要とされております。
    子どもの場面緘黙のケアに対して警鐘が鳴らされつつある背景には、日本であまり知られていなかった大人の場面緘黙に対する研究や、認知度が深まっていることがあげられます。
    子どもの頃の場面緘黙を放置していたことが原因で、大人になってからうつなどに苦しむケースの当事者が、その声をあげ始めていることに起因します。
    場面緘黙のある子どもは、本人が悩んでいても、おとなしい子などと思われたり、本人が伝えることが難しいため、見落とされたり放置されたりすることも多いです。
    早期発見をするには本人から直接聞くだけではなく、友達や友達の保護者とのコミュニケーション、授業参観なども大切になります。困っている様子がみられれば、早めに医療機関を受診することが重要です。

    場面緘黙の治療

    選択的緘黙は、認知行動療法、TMS治療など、さまざまな治療法を用いることがよいと考えられています。

    まとめ

    子どもの場面緘黙は2~5歳の入園や小学校入学時、または小学校低学年までに発症するといわれています。
    集団活動が始まってはじめて、その不安から生じると考えられます。
    原因はさまざまなことが考えられますが、しつけの問題ではありません。