算数障害(ディスカリキュリア)とは?症状・原因・対処法について
目次
算数障害(ディスカリキュリア)とは
算数障害(ディスカリキュリア)とは、学習障害(LD)の一種で、計算や推論が困難な症状を指します。対人コミュニケーションなどには問題がなく、国語や社会などの科目も周囲と変わらない習熟を見せているのに算数だけが極端に苦手な場合は算数障害の可能性があります。
算数障害の人口比率
算数障害の発症率は5~7%と言われており(Shalev, 2007)、この値はディスグラフィア、ディスレクシアと同程度の割合となっています。
読みや書きの困難は言語によっても難易度が異なりますが、数学は基本的に世界共通の数字や記号を使うため、大きな差異は生まれないと言われています。
40人クラスであれば2~3人程度は算数障害の可能性があり、症状の程度には差がありますがそこまで珍しい症状というわけではありません。
併存症
読字障害(ディスレクシア)やADHDとの合併が知られており、特に読字障害は算数障害のある子どものうち40~60%を占めるという報告もあります(e.g., Lewis, et al., 1994)。
算数障害の症状
算数障害の症状は就学期以降(小学生以降)に目立ちはじめ、親や学校の担任によって気づかれることが多いです。具体的には以下のような症状が見られます。
- 簡単な計算問題が解けない
- 九九が覚えられない
- 図形が理解できない
- 文章問題で何を問われているのか分からない
- 自分で計算式を立てられない
- 数の大小が分からない
年齢や学習環境を考慮して、数字への理解が追いついていなかったり、他の科目に比べて明らかに算数や数学の成績が悪かったりすることで発覚します。例えば小学2年生で教わる九九が6年生になっても理解できなかったり、時計を読むことができなかったりするのです。
数字は順序を表す場合(序数性)と量を表す場合(基数性)がありますが、算数障害の場合はその区別がつきにくいのが特徴です。例えば2ヶ月を3倍すると6ヶ月になりますが、2月は3倍しても6月にはならない(そもそも3倍できない)という区別ができなかったりします。
算数障害の原因
原因は十分に特定されていませんが、数量の処理に困難があることが分かってきています。また、言語やワーキングメモリの問題も関与していると考えられており、これらが合わさって計算スピードの遅さや単位の間違い、時間の認識ができないなどの症状が生じると考えられています。
算数障害の困りごと
算数障害を抱えている場合、頑張ったから計算速度が向上したり文章問題がスラスラ解けるようになるわけではありません。脳機能の障害が原因のため、ある程度計算に慣れることはあっても他の子と同じようなスピードで計算することは難しいでしょう。
そういった特性を理解せず、周囲の大人から努力が足りない、もっと計算練習をしなさいなどと叱られたり、友だちからからかわれることが多いと、精神的な問題を抱えることがあります。
こうして発達障害の特性による生きづらさや困難が原因でうつや不安などの症状を発症することを二次障害と呼び、進行すると本格的な治療が必要になるため注意が必要です。
算数障害の対処法
算数障害は計算や数の暗記が苦手ですが、その困難を軽減するために以下のような方法が考えられます。
- 表で覚える
- 計算機を使う
九九の暗算では、口に出して覚えるよりも表で視覚的に見て覚えるほうが得意なケースがあります。自分でひとつずつ確認しながら表を埋めていくことで理解しやすいという子もいるため、どの方法が合っているかを本人と確認しながら進めてみましょう。
また、計算自体が重要でない問題では計算機やそろばんを利用できるようにしてあげることで理解が進むため、担任の先生と相談してみるのもおすすめです。
お子さんにあった学習環境を準備することが何よりも大切です。
算数障害の診断
世界的な精神疾患の診断基準であるアメリカ精神医学会のDSM-5では、算数障害は読字障害、書字障害とともに「限局性学習症・限局性学習障害」としてひとくくりで診断されます。
DSM-5では学習障害について以下のように定義しています。
A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにも関わらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6ヶ月間持続していることで明らかになる:
- 不適格または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたはゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉をあてずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さを持つ)
- 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるものの繋がり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
- 綴字の困難さ(例:母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
- 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
- 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、及び関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数学的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
- 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を溶くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)
B.欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも著名にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または、日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床評価で確認されている。17歳以上の人においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにして良いかもしれない
C.学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する要求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明らかにはならないかもしれない(例:時間制限のある試験、厳しい締切期限内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に重い学業的負荷)
D.学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない
この基準に照らして学習障害と診断され、かつ以下の傾向が強いと判断されると算数障害(ディスカリキュリア)と言えます。
算数の障害を伴う:
- 数の感覚
- 数学的事実の記憶
- 計算の正確さまたは流暢性
- 数学的数理の正確さ
算数障害の治療
算数障害に限らず、学習障害全般に対して薬物療法はありません。
一般的には心理療法を行い、本人の苦手意識をなるべく取り払い、自信をつけさせるような訓練を行います。
また、本人の数の理解や計算がしやすい方法を探り、学習の遅れが生じないようにトレーニングを行うこともあります。
うつ病などの二次障害が見られる場合
算数障害自体の治療法はありませんが、算数障害が原因で生きづらさを感じていて、何らかの二次障害が見られる場合には治療の必要があります。
薬物療法が選択されることもありますが、あくまでも対症療法であり、副作用のリスクもあるため注意が必要です。
当院ではお薬に頼らず治療ができるTMS治療を行っております。
磁気刺激によって脳の特定部位を活性化させることで脳血流を増加させ、低下した機能をもとに戻していきます。
TMS治療に関する詳細は以下の記事で解説しています。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
お子さんの算数障害を疑う場合
お子さんが算数障害かもしれないと思ったら、早めに対処することをおすすめします。
早期に診断し、適切なサポートをすることで将来の生きづらさを軽減することに繋がります。
専門機関に相談する
学校での成績や普段の生活で数字に極端に苦手意識を感じていると思った場合は、発達障害を専門に扱っている医療機関を受診することをおすすめします。
医療機関を受診するのに抵抗がある場合は、自治体の発達障害支援センターなどに相談してみましょう。相談員は数多くの発達障害の方と向き合ってきているため、適切なアドバイスをくれます。また、必要があれば医療機関を紹介してくれます。無料で利用できるので、ぜひ活用してください。
当院でもご相談のみの受診を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
知能検査を受ける
実際に計算能力や推論能力に問題があるかどうかを測るためには、知能検査を受けることをおすすめします。
世界標準の知能検査であるウェクスラー知能検査(WAIS‐Ⅳ・WISC‐Ⅳ)では、総合的なIQの他に、以下の指標ごとに得点が算出されます。
- 言語理解指標(VCI)
- 知覚推理指標(PRI)
- ワーキングメモリー指標(WMI)
- 処理速度指標(PSI)
これにより、実際に算数が苦手なのかどうかがスコアとして算出されるため、算数障害の可能性があるかどうかを客観的に判断することができます。
※知能検査のみで発達障害や学習障害の診断をすることはできません。
当院でもWAIS‐Ⅳ・WISC‐Ⅳ検査を実施していますので、ご興味のある方はお問い合わせ下さい。
ブレインクリニックの知能検査(WAIS-Ⅳ/WISC-Ⅳ)外来紹介ページです。
算数障害の子どもへの向き合い方
お子さんが算数障害の場合、周囲に比べて算数が苦手なことを自覚していることも多く、時にはそれが原因でうつ症状などが出ていることもあります。お子さんとの向き合い方を工夫することで、困り感を軽減し、自信をつけてあげることができます。
算数障害への理解を深める
まず、算数障害への正しい知識をつけることから始めましょう。算数障害の症状を正しく理解していないと、お子さんの困りごとに対して寄り添ってあげることができず、余計に傷つけてしまうことがあります。
できることに注目し、褒める
計算ができないことや文章問題が解けないことを叱っても、お子さんは自分の努力で改善することが困難です。自信を失う原因にもなるため、少しでもできている点に目を向けて、褒めてあげるようにしましょう。数字に対する自信を失わずに勉強を進めることができれば、苦手意識を軽減することができます。
数を意識した生活を送る
普段の生活から数字を意識させることで、数の順序や規則性に触れる機会を増やし、感覚的に数字を理解することに繋がります。
「食パン2枚より3枚のほうがお腹いっぱいになるね」など、数字と身体的な感覚を連動させることで理解が深まることがあります。こうしたトレーニングを日常的に行うことで、少しずつ数の感覚を養うことができるでしょう。
まとめ
算数障害は治すものではなく、どう付き合っていくかが重要です。
数字が嫌いにならないように学習環境を調整しつつ、ゆっくり時間をかけて数の感覚を養っていく意識が大切です。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。