ディスグラフィア(書字表出障害)とは?症状や原因、訓練、対処法について精神科医が解説
発達障害専門外来
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ディスグラフィア(書字表出障害)とは?症状や原因、訓練、対処法について精神科医が解説

全般的な知能発達に遅れはないのに、文字を書くことだけが著しく苦手という方がいます。他のことは周囲と同じようにできるのに、なぜか書くのだけは苦手。こうした症状がある場合は、ディスグラフィア(書字表出障害)かもしれません。今回は、ディスグラフィアの症状、原因、対策、治療法などを精神科医が解説します。

ディスグラフィアとは?

ディスグラフィアは、書字表出障害のことを言い、「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算する」「推測する」のうち、文字を「書く」ことに困難が生じる学習障害(LD)です。

学習障害は以下の3つに分類されます。

  • 読字障害(ディスレクシア):文字を読むのが難しい
  • 書字表出障害(ディスグラフィア):文字を書くのが難しい
  • 算数障害(ディスカリキュリア):計算や推論が難しい

苦手な分野以外の知的能力は周囲と変わりがない場合が多く、発達障害の中でも判断が難しい種類の障害です。単なる苦手分野と思われたまま大人になることもあります。

一方で、ディスグラフィアを持っている方はディスレクシアも併発している場合が多くあります。そのため、日本ではまとめて「発達性読み書き障害」という呼ばれ方をすることもあります。

ディスグラフィアの定義は曖昧な部分がありますが、アメリカ精神医学会『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では以下のように定義されています。

書字表出の障害を伴う:

  1. 綴字の困難さ
  2. 文法と句読点の正確さ
  3. 書字表出の明確さまたは構成力

※引用:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』より

周囲と会話したり、会話の内容を聞いて適切に行動したりというのはできますが、書くことだけが著しく苦手なため、本人の努力不足や家庭での教育が悪いという偏見に繋がります。

本人も頑張っているし、親御さんも勉強をさせていないわけではないため、心無い言葉に傷ついてしまうこともあります。学習障害は努力不足ではなく、脳の神経ネットワークの異常が原因です。そのため、どれほど努力をしてもできないものはできないのです。

ディスグラフィアの症状

ディスグラフィアの中でも苦手分野に個人差はありますが、具体的には以下のような症状が見られます。

  • 文字の大きさに均一性がなく、ノートの罫線やマス目に沿って書けない
  • 鏡文字になってしまう(※ただし、鏡文字は幼少期では誰にでも起こりうるものなので、必ずしもディスグラフィアとは言うことはできません)
  • 年齢に応じた漢字を書くことができない
  • 文字を書く際に余分に線や点を書いてしまう
  • 誤った助詞を使用してしまう
  • 句読点などを忘れる
  • メモがうまく取れない
  • 文字を書く体勢がおかしい(手首を変に曲げる、紙の向きがおかしい等)

文字を書く際に極端にうまく書けない場合や、何度指摘しても句読点を忘れてしまうような場合はディスグラフィアを疑ったほうが良いでしょう。

ディスグラフィアの原因

人によって「書く」の中でも困難な内容は異なります。そのため、原因や治療法、トレーニング法を探る前には「書く」ことの中でも何が苦手なのかをはっきりとさせることが重要です。

ディスグラフィアの原因やメカニズムは明らかになっていませんが、現在以下のような要素が「書き」の困難につながっていると考えられています。

「文字の形の認識が難しい」という視覚情報の処理不全

視覚情報処理は、文字の大きさや位置関係を認識するなどの働きを指します。英語に比べて日本語は複雑な文字が多いため、小学生になって感じを習うようになると困難が表れやすい傾向にあります。

読むことはできても書くことができない、というパターンの場合は、視覚情報処理に問題があると考えられます。

「文字の読み方がわからない」という音韻処理の不全

音韻処理とは、特定の文字がどのような音と対応しているかを認識して理解する働きのことを指します。

例えば「て」という文字が「te」という音であると理解するものです。

また、「ご」と「り」と「ら」が「ごりら」となるように、文字を単語のまとまりとして捉えることが困難な場合もあります。

この「読み」の困難が、「書き」の困難と連動する場合があります。ディスクレシアに付随したディスグラフィアの場合は、このことが原因として考えられます。

「不器用でうまく文字が書けない」という発達性協調運動障害の関与

発達性協調運動障害とは、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に対して本来期待されるものよりも不正確であったり、困難であるという機能障害です。別名、不器用性症候群とも呼ばれていました。

発達性協調運動障害がある場合、字を書くなどの指先を使う繊細な作業、または目などの感覚器官からの情報と指先の細かな作業との協調運動が、同年代と比較するとぎこちない・遅い・不正確と指摘される場合があります。

発達性協調運動障害が原因となり、字がマスからはみ出してしまうなどという症状が出現することもあります。また、筋力を上手く調節することが出来ず、鉛筆などを握ることができないため筆圧が弱いと指摘されることもあります。

文字を書く以外にも、ボールを投げられない、ボタンを留められない、靴紐が結べない、自転車に乗れないなど、年齢にもよりますが様々なできないことが見られます。

ディスグラフィアに対する訓練と対策

ディスグラフィアは、反復訓練だけでは習得できるようになる障害ではありません。なので、量ではなく質に重点を置いた訓練をゆっくりと家庭で行うなど、家族の協力が必要不可欠です。

ディスグラフィアと向き合うには、その子の特徴に適した方法を見つけていくことが重要です。ここでは以下の7つの困り事に対する対策を紹介します。

文字のバランスが悪い

文字を書く際、バランスが上手く取れずに不格好となってしまう原因として、「マスの空間把握が苦手」、「細かく手を動かすことが困難」などが考えられます。

マスの空間を捉えることができるようにする対策として、マスを4色のブロックに分け、文字のどのパーツがどのくらいのマスを占めるのかを教えていく訓練方法や、その文字の各パーツの書き始めの箇所に印をつけて大きさを覚えさせる訓練方法があります。

他にも、細かく手を動かすことが難しいお子さんには、滑り止めマットの付いた下敷きを使って力の入れ具合を覚えさせたり、ひらがなのバランスが崩れやすいお子さんにはイラストを用いて形を覚えやすくして教えていく訓練方法もあります。

文字や数字が書けない

文字や数字が読めるのに書けない際の理由はさまざまあります。

なぜ書けないのかという理由をその子に合わせて考え、その子に適した訓練方法を考えることが重要です。

形として覚えるのが苦手である場合、楽しみながら形を覚えさせていくと良いでしょう。たとえば文字をイメージしやすくするようにイラストを取り入れたり、数字の書き方をリズムに乗せながら練習するなどです。

また、漢字の場合はへんやつくりのパーツをパズルのように組み合わせて一つの漢字を作るといった方法もおすすめです。字を書くことが苦手なお子さん向けの漢字訓練教材もあるので活用しても良いでしょう。

似た文字を書き間違えてしまう

似た文字を書き間違えてしまう場合、その似た文字の違いを見分けることが難しい可能性があります。例としては、ひらがなの「る」と「ろ」、「わ」と「れ」、漢字では「毛」と「手」などは形が似ているので混乱する可能性があります。

そのような場合、2つの文字の異なる部分を太く強調したり、目立つよう色付けをしたりと工夫することで覚えることが可能になります。

これらの対策で類似した文字の違いを意識しやすくすることで、間違えず認識することが出来るようにしていくことが可能です。

鉛筆で上手く字を書けない

鉛筆を使うためには、「親指・人差し指・中指で鉛筆をつまんで動かす動き」と「薬指と小指の安定」が必要です。細い鉛筆だと、より指先の力が必要となり、手全体で支える必要が出てきます。細い鉛筆より太い鉛筆のほうが持ちやすいため、初めは子ども用の太いタイプの鉛筆を使用すして訓練すると良いでしょう。

他にも、指を動かす運動によって、鉛筆を掴む力が養われ安定性を得ることができます。この場合筆圧の弱さも要因のひとつとなるため、3Bや4Bといった芯が濃くて柔らかいタイプの鉛筆を用いることで、お子さんの自信に繋がるでしょう。また、市販の補助グッズの使用によって、鉛筆の保持がしやすくなるケースもあるので、取り入れてみるのも良いでしょう。

視覚過敏がある

ディスグラフィアの他に視覚過敏がある場合、紙の白さに過敏に反応し、文字の黒さと紙の白さのコントラストに目がチカチカしてしまい、長い間ノートに向き合うことができない場合があります。

視覚過敏を緩和するために、白ではなくコントラストが激しくない色味のついたノートの選択や、色付きメガネの使用など、お子さんにとって最適な方法や対策を見つけていくことが大切です。

鏡文字を書くことがある

鏡文字を書く原因として、左右の認識ができていない可能性が考えられます。そのため、文字を書く際に「左から書くよ」「右に伸ばすよ」といったような、左右を認識できる声掛けを行うことがおすすめです。

左右を認識できずにいる場合は、まずはお子さんがきちんと左右を把握できるようにする必要があります。「靴を右足から履いてみよう」「コップを左手で取ってみよう」など日常生活での左右に関する積極的な声掛けを通して、定着を図りましょう。

また、薄く書かれた見本をなぞることも対策の一つとして挙げられます。鏡文字は、必ずしもディスグラフィアのような学習障害の症状を表しているとは限りません。幼少期では脳の発達が未熟なため、左右を正しく把握できていなかったり、利き手がまだ定まっていなかったりします。小学校1年生が終わる頃でもひらがな文字を書く際に困難が見られる場合や、拗音、撥音、促音の特殊音節でつまずきが見られる場合は、学習障害を診断できる発達障害の専門外来への受診をおすすめしています。

ひらがな文字に限らず、漢字やローマ字において困難が見られる場合もあるので、ディスグラフィアの特性があっても、それを把握する時期はばらつきがあります。お子さんがどのような種類の文字を書くことに対して困難を感じているか、まずは様子を見ることが大切です。

黒板の文字をノートに書き写すことが難しい

黒板の文字をノートに移す場合、黒板とノートを交互に見る必要があるため、焦点を移す目の動き(眼球運動)と記憶が必要となります。このような機能に問題があると、努力しても板書をノートに取れないという事が起こります。

学校の理解があれば、スマートフォンで黒板を撮影し、保存することも対策としては有効なこともあります。

ディスグラフィアの治療法

ディスグラフィアの治療法は現在はまだ確立されていません。そのため、対症療法として読み書きのトレーニングが行われます。

しかし、そもそも日本での認知度がまだ高くないため、学校や職場での合理的な配慮はあまり進んでいないのが現状です。

知的発達に遅れがないために単なる努力不足として見られがちですが、気になる場合は専門機関を受診し、その上で学校や職場と話すのが良いでしょう。

二次障害でうつ病の症状が出ている場合は、TMS治療が有効

ディスグラフィアは文字がうまく書けず、友達からからかわれたり、理解のない先生に怒られたりして自信を失ってしまうことがあります。その結果、うつ病などの二次障害を発症することがあります。
もしうつ症状が見られるようであれば、TMS治療が有効です。

欧米で普及が広がっている治療法で、日本ではまだ限られた医療機関でしか治療を受けることができません。

磁気刺激によって脳の特定部位を活性化させることによって脳血流を増加させ、低下した機能をもとに戻していきます。

TMS治療は1回あたり約20分程度磁気刺激を当てるもので、大きな痛みや副作用はありません。また、治療期間も3週間~6週間程度となることが多く、これまで薬物療法で効果が見られなかった場合でも症状が改善していくことが多いです。

TMS治療に関する詳細は以下の記事で解説していますので、参照してください。

まとめ

書くことに困難があるディスグラフィアは、まだ広く認知されていません。そのため、本人の努力不足と片付けられてしまったり、そういった背景から自信を失くして不登校などにつながってしまうこともあります。

周囲でディスグラフィアと思われる人がいる場合は、専門機関の受診を進め、その上で学校や職場での配慮を検討してみてください。

書くことが難しいだけで、工夫と配慮があれば日常生活の不便は減らしていくことができます。こういった問題を抱えている人がいるということを理解し、障害と向き合っていくことが大切です。


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