解離性障害の症状、原因、診断、治療法
目次
解離性障害・転換性障害という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
従来は「ヒステリー」と呼ばれており、女性に特有の疾患であると誤解され、子宮に原因があると信じられていたこともありました。
今回は、解離性障害・転換性障害の症状や診断、治療について紹介します。また、発達障害との関連性についても解説します。
解離性障害・転換性障害とは
ストレスや心的外傷を原因として、記憶が飛んだり、急にいなくなったりしてしまい、日常生活に支障をきたすような状態を解離性障害といいます。原因となるストレスや心的外傷は様々で、一過性のものから慢性的に繰り返すものもあります。また、身体の一部が麻痺したり、声が出なくなるなど身体症状として現れて日常生活に支障をきたす状態を転換性障害と言います。
WHOの診断ガイドラインICD-10では解離性障害と転換性障害を同一の疾患と位置づけ「解離性(転換性)障害」としています。
これは、解離性(転換性)障害のかつての疾患名であるヒステリーが「解離型」と「転換型」の2つに分かれていたことに由来しています。また、そもそも解離と転換が共存するような症状(心因性非てんかん性発作等)もあるため、同一の疾患として位置づけているものと思われます。
解離性障害
解離とは、簡単にいうと意識が飛ぶ現象です。後述しますが、自分の生活が思い出せなくなったり、突然いなくなってその時の記憶がなかったりします。
本来は意識や記憶といった感覚はまとまっているのですが、そのまとめる能力が一時的に失われた状態を指します。
ときには、誰しも記憶や意識を統合することができない場合があります。例えば話に夢中になっていてその時のドライブの様子を思い出せなかったりするケースや、離人感、白昼夢などです。こうしたケースは正常解離と呼ばれ、日常生活に支障をきたすようなレベルではありません。
しかし、解離性障害の場合は短い場合は数分間、長い場合は数日に渡って自分の活動すべてを完全に忘れることがあります。この記憶がない状態に本人が気づいていることも、気づいていないこともあります。
また、自分が自分ではないような感覚に陥ることもあります。そのため、自分が何をしていたのか、どうしてそれをしたのかが説明できないことがあります。
お子さまの場合はショックな出来事や耐えきれないような悲しみ、つらい気持ちから心を守るために解離が生じることも多いです。幼少期にみられることがある「想像上の友達 imaginary companion」も解離の一種と言えます。周囲の友だちとうまくコミュニケーションがとれなかったり、両親のネグレクトなどで傷ついている場合に他の人には見えない友だちに話しかけたり、時には幻聴を聞きながら支えられるという体験をします。
転換性障害
転換とは、ストレスや葛藤のような心理的要因が身体症状になって現れることを指します。簡単にいうと、身体に何も問題がないのに思い通りに動かせなかったり、五感で受け取る刺激を感じなくなるといった状態です。
随意運動機能(自分の意志でコントロールできる運動)に異常をきたし、立てない、歩けない、声が出ないなどの症状が出ます。また、感覚機能(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の異常がある場合は、目が見えなくなる、耳が聞こえない、においや味を感じない、熱さも冷たさも感じないなどの症状が出ます。
解離性障害・転換性障害の症状
解離性障害には様々な症状があり、WHOの診断ガイドラインICD-10では、以下が紹介されています。
解離性健忘
心的ストレスをきっかけにして出来事の記憶をなくす症状です。通常の物忘れとは違い、重要な個人的情報を想起できなくなるものを指します。
その人がこれまで経験してきた出来事に関する記憶が思い出せなくなりますが、行動には影響を及ぼし続けることがあります。例えば、非常階段で暴行を受けた女性がその記憶は思い出せないものの、非常階段を使うことを拒否するといった現象があります。
解離性健忘にも種類があり、限局性健忘、選択的健忘、全般性健忘、系統的健忘、持続性健忘に分類されます。
多くの場合は数日の内に記憶がよみがえりますが、長期に渡って記憶が戻らないケースもあります。
解離性とん走
突然家出をしたり、深夜に徘徊をしたりという形で見られることが多い症状です。家庭や仕事を離れてしまうことが多いです。症状が軽いものだと職場への遅刻や帰宅が遅いなどにとどまることがありますが、とん走が長期に渡るケースでは、縁もゆかりもない遠く離れた土地に行き、新たな名前で新たな仕事につくこともあります。この際、自分の生活が変化している自覚はありません。
とん走状態が終わると、患者が自分の置かれている状況に気づき、なぜここにいるのか、何をしていたのか記憶がない場合が多いです。大半の患者は過去の自分の生活を思い出すことができますが、長期間を要するケースがあります。また、自分の過去について全く想起できない方もいます。
カタレプシー
身体が硬く動かなくなる状態を指します。
受動的に取らされた姿勢を保ち続け、自分の意思で変えようとしない状態です。
解離性昏迷
意識があるにも関わらず、身体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなる状態です。
光や音などの刺激に対する反応が弱くなったり、全く反応しなくなったりします。
検査で身体的な問題や精神的問題が見当たらず、ストレスや対人関係問題などの有無をもとに診断されます。
離人症
身体もしくは精神から自分が切り離されたような感覚になり、自分を外から眺めているように感じられる状態です。
一時的な離人感や現実感消失はよく見られる症状ですが、長時間持続したり再発を繰り返す場合、または症状のために大きな苦痛を感じていたり、家庭や職場で役割を果たせなくなっている場合に診断されます。
解離性てんかん
心理的な要因によって生じるてんかん発作を指します。昏睡状態になる、身体が動かせない、感覚がないなどの症状が現れます。
症状だけではてんかん発作と見分けがつかない方もいるため、症状が生じている場合の映像や脳波を記録して判断する場合もあります。
多重人格障害(解離性同一性障害)
複数の人格を持ち、それらの人格がその時々で現れるものです。別の人格が現れている間はその記憶がない場合が多く、日常生活に大きな支障をきたす場合があります。
他人から見ると外見は同じ人なのに、性格、口調、筆跡など様々なものが異なります。そのため、性格の多面性とは別物であることに注意が必要です。
解離性運動障害
運動症状、感覚症状、発作症状があります。
運動症状の例は歩き方に異変が生じたり、支えなしでは歩けないなどの歩行障害や、けいれん、手足の震えなどがあります。
感覚症状の例は、視覚、聴覚の異常(見えない、聞こえない)や、嚥下障害(飲み込めない)などがあります。
発作症状では、意識消失、手足の震えなどがあります。
心因性失声
喉や声帯など、発声に関わる部分を検査しても以上がないのに声が出なくなる症状で、その背景に心理的要因があるものを指します。
心因性難聴
聴覚路には障害が見られないのに難聴の症状があったり、難聴の訴えがなくても聴力検査の結果難聴を示す範囲にあるもので、この背景に心理的要因があるものを指します。
その他の解離性障害
上記の症状以外にも様々な症状があります。
- ヒステリー性運動失調症
- ヒステリー性失声症
- 心因性振戦
- 解離性痙攣
- 憤怒痙攣
- 解離性感覚障害
- 神経性眼精疲労
- ガンサー症候群
- 亜急性錯乱状態
- 急性精神錯乱
- 心因性もうろう状態
- 心因性錯乱
- 反応性錯乱
- 非アルコール性亜急性錯乱状態
こうした症状も解離性障害とされます。かなり幅広いですが、自分の身体がコントロールできなかったり、一事で気に記憶や意識が飛んでしまうような症状がほとんどです。
解離性障害・転換性障害の原因
はっきりとした原因はわかっていませんが、ストレスや心的外傷によって発症すると示唆されています。
事故や災害の体験、殺人現場の目撃といった極度のストレスが原因で突発的に発症するケースや、幼少期の虐待やいじめによって発症するケースがあります。
しかし、ストレスの感じ方は人それぞれであるため、同じ境遇にいたから全員が解離性障害・転換性障害になるとは限りません。
また、解離性障害は発達障害やその他の精神障害と合併するケースも多く存在します。発達障害や他の精神障害と区別して原因を探るためには、医師の主観による判断だけでなく、脳の状態を客観的に把握できるQEEG検査を行うことでより正確な原因を把握することができます。
QEEG検査は脳の状態を可視化し、脳波が、脳のどの位置から、どんなタイミングでどのくらい出ているのかを画像にすることで、脳の各部位が正常に機能しているかどうかを診断することができる検査です。この記事では、QEEG検査について、通常の脳波検査との違い、具体的な検査方法、診断が可能な疾患について精神科医が解説しています。
その他にも、PTSDや境界性パーソナリティ障害でも解離症状が見られることがあるため、正確な鑑別が必要になります。
解離性障害・転換性障害のサイン
以下のような状態が見られたら、何らかの解離性障害の可能性があります。
- 無表情でほとんど動かない、話しかけてもほとんど応答がなく、ぼーっとしている⇒解離性昏迷
- 突然いなくなり、気づいたら別の場所にいたといい、それまでの記憶がない⇒解離性とん走
- 現実感がなくなり、自分が自分でないような感覚に陥り、苦しむ⇒離人症
- 本人の様子が突然変わるが、その間の記憶がない。全く別人のように見える⇒多重人格
これらの状態、症状は、本人にはきっかけや原因がわかりません。また、そもそも患者の症状に気づいていないことも少なくありません。そのため、周囲の人がサポートして適切な治療や環境整備をすることが重要です。
普段の行動や言動から何かおかしいと感じたら、まずは専門家に相談するのが良いでしょう。精神科や心療内科が専門ですが、まずは自分のかかりつけ医に話してみて、アドバイスをもらっても良いでしょう。専門でないとしても、どういった症状があるのかを聞けば誰に相談すればよいのかはおおよそ検討がつきます。また、保健所や精神保健福祉センターに相談することもできます。
解離性障害・転換性障害の診断
本人が解離症状に気づいていないことも多く、統合失調症などとの鑑別が必要になるケースがあります。
また、身体的要因を除外するためにMRI検査、脳波検査、血液検査などを行うことがあります。脳の外傷が原因だったり、薬物使用による可能性を確認するためです。
また、発達障害が合併していることもあります。心理検査等も行い、患者さまの症状がどんな原因で生じているのかを多角的に調べて判断していきます。また、周囲の方に普段の様子を質問することもあります。
解離性障害・転換性障害の治療と対処
上述したとおり、解離性障害・転換性障害の症状は様々で、またその程度も異なります。この障害それ自体に対しての有効な薬物はありません。そのため、時間をかけてゆっくりと改善していく必要があります。患者さまやご家族には治療に時間がかかることを理解していただき、焦らずに環境整備をしていくことが重要です。
この障害では、患者本人が症状を周囲に話しても「嘘をついている」と思われ、理解してもらえずに苦しんでいることも多いです。そのため、治療者は患者の話を注意深く聞き、積極的に事例を紹介するなどして周囲の人への理解を促すことも必要でしょう。
また、発達障害と合併している場合、発達障害の特性を改善することで症状が緩和することもあります。
心理療法
心的外傷によって発症している可能性が高いため、心理療法が推奨されています。しかし、導入の前提として本人の置かれている環境を整備することが重要です。日常的に暴力を受けている、耐えられないいじめに遭っているなどの状況があるならば、まずはその環境を改善して安全を確保するところから始めるべきでしょう。
薬物治療
解離性障害・転換性障害に対して、日本では医療保険が適応される薬はありません。また、海外を見ても、有効性が確認されている薬はありません。
基本的には環境整備と心理療法を行い、あくまでも二次的な症状に対して薬を使用するにとどめます。例えば解離現象によって眠れない場合や抑うつ状態になっていると判断できる場合、睡眠薬や抗うつ剤を一時的に使用するということはあります。
投薬時には依存性をもたらす薬などは控えることが望ましいとされています。
まとめ
解離性障害、転換性障害は多くの症状があり、原因がはっきりとはわかっていません。今回紹介したような症状をご自身で感じる場合はもちろん、家族や友人に兆候が見られる場合は早めに専門家に相談するようにしましょう。
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技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。