「書くのが苦手」なディスグラフィア(書字障害)とか何か?症状、訓練・対処法について【医師が分かりやすく解説】

ディスグラフィアとは?

ディスグラフィアは、書字障害のことを言い、「読む」「書く」「聞く」「話す」「計算する」「推測する」のうち、文字を「書く」ことに困難が生じる学習障害(LD)です。
ディスグラフィアの定義には、曖昧な部分がありますが、アメリカ精神医学会『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によると、限局性学習障害の一つとして以下のように定義されています。
「綴字の困難さ・文法と句読点の正確さ・書字表出の明確さまたは構成力といった書字表出の障害を伴う」ものとされています。(日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』2014年 医学書院/刊 p66より引用)
ディスグラフィアは通称であり、書字障害や書字表出障害と言ったように様々な呼称があります。
また、「読み」に困難のあるディスクレシア(読字障害・読み書き障害)に伴って「書き」の困難が生じる場合もあります。
ディスグラフィアを含む学習障害の特徴の一つは、「知的に関しては発達に大きな遅れがない」という点です。
したがって、話したり行動すること、文字を読むことはできますが、文字を書けなかったり、不得意だったりするのです。
その子の姿だけを見ると、しばしば「努力をしていないため書くことができない」「不得意であれば一生懸命練習すればいい」と本人の努力不足を責められたり、「子供に勉強をさせていない」など親への偏見が生まれることがあります。
これは、ディスグラフィアや学習障害のある子、そしてその親にとっては非常に心が痛むことです。
なぜなら学習障害の場合、脳の神経ネットワークに異常が見られるために、どんなに本人が努力しても文字を書くのが難しい状態であるからです。

ディスグラフィアの症状

症状の現れ方や苦手なことは、個人差がありますが、代表的な症状として以下のようなものがあります。
  • ・書き文字がマスや行から大きくはみ出してしまう
  • ・文字を書く際に鏡文字を書く(※ただし、鏡文字は幼少期では誰にでも起こりうるものなので、必ずしもディスグラフィアとは言うことはできません)
  • ・年齢に応じた漢字を書くことができない
  • ・文字を書く際に余分に線や点を書いてしまう
  • ・誤った助詞を使用してしまう
  • ・句読点などを忘れる

  • など
    読字障害であるディスクレシアに付随してディスグラフィアが生じることもあり、文字を読むこともできないという症状の場合もあります。
    いずれにせよ、文字を書く際に何らかの困難症状が見受けられる場合、ディスグラフィアの可能性があると言えます。

    ディスグラフィアの原因

    原因やメカニズムは、明確には明らかになっていませんが、現在以下のような要素が「書き」の困難につながっていると考えられています。
    ディスグラフィアは、人によっても原因が異なり、原因は1つではないと考えられています。そのため、本人にとって文字を書くことがなぜ難しいのかという原因を考えることが、問題解決をする上で非常に重要となります。

    ・「文字の形の認識が難しい」という視覚情報の処理不全

    視覚情報処理は、文字のパーツの位置関係や大きさを認識したり、パーツから形を作ったりする働きのことを指します。
    英語圏などで使用されるアルファベットは、比較的わかりやすい文字の形をしています。
    一方、日本語の場合、漢字のようにシンプルではなく複雑な形の文字が多いため、小学校などで漢字と触れるようになると困難が表れやすい傾向にあります。
    「読み」は問題ないが、「書き」のみに問題が生じる場合、視覚情報処理に関連している可能性が高いと考えられています。また、視覚過敏によって紙と文字の色のコントラストに過敏に反応してしまい、ノートに向き合えないケースもあり、注意が必要です。

    ・「文字の読み方がわからない」という音韻処理の不全

    音韻処理とは、特定の文字がどのような音と対応しているかを認識して理解する働きのことを指します。
    例えば「て」という文字が「te」という音であると理解するものです。
    また同時に、「ご」と「り」と「ら」が「ごりら」となるように、文字を単語のまとまりとして捉えることが困難な場合もあります。
    この「読み」の困難が、「書き」の困難と連動する場合があります。
    ディスクレシアに付随したディスグラフィアの場合は、このことが原因として考えられます。

    ・「不器用でうまく文字が書けない」という発達性協調運動障害の関与

    発達性協調運動障害とは、日常生活における協調運動が、本人の年齢や知能に対して本来期待されるものよりも不正確であったり、困難であるという機能障害です。
    別名、不器用性症候群とも呼ばれていました。
    発達性協調運動障害がある場合、字を書くなどの指先を使う繊細な作業、または目などの感覚器官からの情報と指先の細かな作業との協調運動が、同年代と比較するとぎこちない・遅い・不正確と指摘される場合があります。
    発達性協調運動障害が原因となり、字がマスからはみ出してしまうなどという症状が出現することもあります。
    また、筋力を上手く調節することが出来ず、鉛筆などを握ることができないため筆圧が弱いと指摘されることもあります。

    ディスグラフィアに対する訓練・対策や治療法

    ディスグラフィアは、反復訓練だけでは習得できるようになる障害ではありません。
    なので、量ではなく質に重点を置いた訓練をゆっくりと家庭で行うなど、家族の協力が必要不可欠です。
    ディスグラフィアと向き合うには、その子の特徴に適した方法を見つけていくことが重要です。ここでは7つの困り事に対する対策を紹介します。

    1、文字のバランスが悪い

    文字を書く際、バランスが上手く取れずに不格好となってしまう原因として、「マスの空間把握が苦手」、「細かく手を動かすことが困難」などが考えられます。
    マスの空間を捉えることができるようにする対策として、マスを4色のブロックに分け、文字のどのパーツがどのくらいのマスを占めるのかを教えていく訓練方法や、その文字の各パーツの書き始めの箇所に印をつけて大きさを覚えさせる訓練方法があります。
    他にも、細かく手を動かすことが難しいお子さんには、滑り止めマットの付いた下敷きを使って力の入れ具合を覚えさせたり、ひらがなのバランスが崩れやすいお子さんにはイラストを用いて形を覚えやすくして教えていく訓練方法もあります。

    2、文字や数字が書けない

    文字や数字が読めるのに書けない際の理由はさまざまあります。
    なぜ書けないのかという理由をその子に合わせて考え、その子に適した訓練方法を考えることが重要です。形として覚えるのが苦手である場合、楽しみながら形を覚えさせていくと良いでしょう。
    たとえば文字をイメージしやすくするようにイラストを取り入れたり、数字の書き方をリズムに乗せながら練習するなどです。
    また、漢字の場合はへんやつくりのパーツをパズルのように組み合わせて一つの漢字を作るといった方法もおすすめです。
    字を書くことが苦手なお子さん向けの漢字訓練教材もあるので活用しても良いでしょう。

    3、似た文字を書き間違えてしまう

    似た文字を書き間違えてしまう場合、その似た文字の違いを見分けることが難しい可能性があります。
    例としては、ひらがなの「る」と「ろ」、「わ」と「れ」、漢字では「毛」と「手」などは形が似ているので混乱する可能性があります。
    そのような場合、2つの文字の異なる部分を太く強調したり、目立つよう色付けをしたりと工夫することで覚えることが可能になります。
    これらの対策で類似した文字の違いを意識しやすくすることで、間違えず認識することが出来るようにしていくことが可能です。

    4、鉛筆で上手く字を書けない

    鉛筆を使うためには、「親指・人差し指・中指で鉛筆をつまんで動かす動き」と「薬指と小指の安定」が必要です。
    細い鉛筆だと、より指先の力が必要となり、手全体で支える必要が出てきます。
    細い鉛筆より太い鉛筆のほうが持ちやすいため、初めは子ども用の太いタイプの鉛筆を使用すして訓練すると良いでしょう。
    他にも、指を動かす運動によって、鉛筆を掴む力が養われ安定性を得ることができます。
    この場合筆圧の弱さも要因の1つとなるため、3Bや4Bといった芯が濃くて柔らかいタイプの鉛筆を用いることで、お子さんの自信に繋がるでしょう。
    また、市販の補助グッズの使用によって、鉛筆の保持がしやすくなるケースもあるので、取り入れてみるのも良いでしょう。

    5、視覚過敏がある場合

    視覚過敏がある場合、紙の白さに過敏に反応してしまい、文字の黒さと紙の白さのコントラストに目がチカチカしてしまい、長い間ノートに向き合うことができない場合があります。
    視覚過敏を緩和するために、白ではなくコントラストが激しくない色味のついたノートの選択や、色付きメガネの使用など、お子さんにとって最適な方法や対策を見つけていくことが大切です。

    6、鏡文字を書くことがある

    鏡文字を書く原因として、左右の認識ができていない可能性が考えられます。
    そのため、文字を書く際に「左から書くよ」「右に伸ばすよ」といったような、左右を認識できる声掛けを行うことがおすすめです。
    左右を認識できずにいる場合は、まずはお子さんがきちんと左右を把握できるようにする必要があります。
    「靴を右足から履いてみよう」「コップを左手で取ってみよう」など日常生活での左右に関する積極的な声掛けを通して、定着を図りましょう。
    また、薄く書かれた見本をなぞることも対策の一つとして挙げられます。
    鏡文字は、必ずしもディスグラフィアのような学習障害の症状を表していること限りません。
    幼少期では脳の発達が未熟なため、左右を正しく把握できていなかったり、利き手がまだ定まっていなかったりします。
    小学校1年生が終わる頃でもひらがな文字を書く際に困難が見られる場合や、拗音、撥音、促音の特殊音節でつまずきが見られる場合は、学習障害を診断できる発達障害の専門外来への受診をおすすめしています。
    ひらがな文字に限らず、漢字やローマ字において困難が見られる場合もあるので、ディスグラフィアの特性があっても、それを把握する時期はばらつきがあります。
    お子さんが、どのような種類の文字を書くことに対して困難を感じているか、まずは様子を見ることが大切です。

    7、黒板の文字をノートに書き写すことが難しい

    黒板の文字をノートに移す場合、黒板とノートを交互に見る必要があるため、焦点を移す目の動き(眼球運動)と記憶が必要となります。
    このような機能に問題があると、努力しても板書をノートに取れないという事が起こります。
    学校の理解があれば、スマートフォンで黒板を撮影し、保存することも対策としては有効なこともあります。