
発達障害とワーキングメモリ(記憶力)【記憶力低下を阻止する方法を医師が解説】
目次
記憶の中枢は海馬という脳の部位にあることが分かっています。
しかし、海馬を損傷した患者の研究から明らかになったことは、海馬を失うと新しい記憶は出来ないが、昔の記憶は保たれるということです。
つかり、海馬は記憶の獲得と、短期の保持には関わっているが、長期的な保持の場所ではないことです。
記憶の仕組み・ワーキングメモリとは?
長期記憶が獲得される際に誘導される遺伝子にc-fosという遺伝子が関連しています。
情報を整理し統合する脳のなかの作業台として、ワーキングメモリというものがあります。
ワーキングメモリとは要するに短期記憶のことで、哺乳類においては、数時間程度の期間の記憶を示します。
逆に、一日以上覚えている記憶が長期記憶になります。
長期記憶はいきなり形成される訳ではなく、海馬で短期記憶が生成された後に、重要なものが選別され、大脳で長期記憶に入れ替わることが起こっています。
短期記憶(ワーキングメモリ):海馬依存的記憶
長期記憶:海馬依存的な記憶と海馬非依存的な遠隔記憶の2種類
長期記憶に必要な遺伝子にCREBがあります。長期記憶には遺伝子の発現、たんぱく質の発現が必須になります。
短期記憶(ワーキングメモリ)をする時に起きているのが、既にある頭の神経細胞のネットワークを変更することなく、シナプスの伝達効率を上げ下げしています。
上げるのがLTP、下げるのがLTDです。
長期記憶の際においても、シナプスの伝達効率を上げ下げしているのですが、単にシナプスのシナプスの伝達効率を変えるだけでは、時間の経過とともに、記憶が消えてしまいますが、シナプスの構造自体が変われば、長期的に保持されることになります。
ADHDや学習障害において障害されるワーキングメモリーとは?
脳の中には、言語性ワーキングメモリーとして音韻ループ、視覚性ワーキングメモリーとして視空間スケッチパッド、それらを統合するエピソーディックバッファがあります。
前部帯状回はADHDの責任領域の1つでもあるため、ADHDの方や学習障害の方がワーキングメモリーの低下をきたし易い理由になっています。
音韻ループ【言語性ワーキングメモリー】
文章などを読むとき、心の中で声を出して読んでいます。その時に使う機能です。
消えそうになっては、よみがえるという事を繰り返しながら、言語の短期記憶が維持されます。
視空間スケッチパッド【視覚性ワーキングメモリー】
視・空間スケッチパッドは視・空間情報を保持し、それを操作する機能を持っています。視覚や空間などのイメージ情報を頭のなかで思い浮かべるときなどに利用されます。
エピソーディックバッファ
エピソードバッファは、音韻ループや視空間スケッチパッド、脳内の長期記憶から、視覚・聴覚など異種の情報を集めて、ひとつの多次元のイメージを創り出す場所です。
ADHDや学習障害とワーキングメモリー
ワーキングメモリーは、読む能力の獲得と流暢な使用の際に重要な役割を果たすため、ワーキングメモリーが十全に機能しないならば、読み能力の獲得に支障が生じることが示唆される。
算数障害では視空間スケッチパッド【視覚性ワーキングメモリー】が障害されており、ディスレクシア(読み障害)では音韻ループ【言語性ワーキングメモリー】が障害されていることが明らかになっています(Schuchardt, Maehler, and Hasselhorn,2008)。
医師の主観ではなく、客観的なデータで診断
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)

治療前と治療後のQEEG検査結果の変化

人工知能(AI)を用いて、ディープラーニング(深層学習)することで、様々な脳の状態を統計学的に把握することが出来るようになりました。
5歳から高齢者(大人)まで幅広い年齢層の方に対してQEEG検査の結果に即した、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案する事も可能です。
客観的指標のない精神科領域において、欧米では非常に需要のある検査法です。