認知症の予防に睡眠障害の改善が効果的である可能性
目次
近年の研究で、認知症と睡眠障害の関係性が見直されてきています。
高齢化社会が進むにつれ、認知症患者は増加していくことが厚生労働省の研究で示されており、認知症は現代日本の大きな課題となっていることがわかります。
(出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」)
この記事では、最新の認知症研究で明らかになってきている認知症と睡眠障害の関係性について解説していきます。
認知症と睡眠の関係性
認知症と睡眠障害が結びつかないと思う方も多いと思いますが、実は非常に深い関係があります。
そもそも睡眠障害は高齢者に多く見られます。退職・死別・独居などが心理的なストレスになりますし、忙しくないため決まった時間に寝たり起きたりする必要もなくなります。こうして、いつの間にか不眠症をはじめとする睡眠障害に悩まされることが多いのです。
その他にも理由はあり、夜間の息苦しさ、頻尿、リウマチの痛みなど様々な原因が考えられます。
認知症が進行すると睡眠障害が見られると考えられてきた
認知症と睡眠障害については以前から研究されており、認知症の症状の1つとして睡眠障害があると考えられてきました。
例えばアルツハイマー型認知症の場合は同年代の方に比べて睡眠が浅く、夜間の不眠と昼間の眠気に悩む傾向にあります。また、しっかりと目が覚めずにせん妄状態になる方も多いです。
こうしたお悩みは本人だけでなく家族も困りますが、残念ながら認知症の睡眠障害に対して有効な薬物療法などは知られていません。特に高齢者の場合、睡眠薬を使いすぎると誤嚥や転倒・骨折のリスクも高くなるため注意が必要です。このため、概日リズムの恒常性をいかにして保つかという点で議論されることが多かったのです。
睡眠障害が認知症の原因になっている可能性が示唆されている
近年の研究では、不眠症状が認知症の発症リスクや前駆・初期症状になっている可能性が示唆されています。睡眠の異常と認知症との関連を解析した最新のメタ解析では、睡眠関連疾患のうち不眠症や睡眠呼吸障害、レム睡眠行動障害において認知症の相対リスクの有意な上昇が見られたほか、認知症の原因疾患に着目したメタ解析では、不眠症ではアルツハイマー型認知症の相対リスクが有意な上昇が見られました(Shi et al., 2018)。
また、アルツハイマー型認知症においてこんな報告もあります。
非認知症高齢者のアミロイドPETでの脳内アミロイドβ蓄積量が、一晩あたりの睡眠時間が短いほど、あるいは入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間)が長いほど多かったのです(Brown et al., 2016 ; Spira et al., 2013)。
つまり、不眠症状があることで認知症の発症原因となるアミロイドβが増加し、アルツハイマー型認知症が進行する可能性があるということです。
まだ研究途上であり、因果関係を結論づけるところまでは至っていませんが、これまで考えられてきた「認知症→睡眠障害」だけでなく、「睡眠障害→認知症」の双方向的関係性が存在することが明らかになってきているのです。
BZD服用と認知症発症の関係性
次に、認知症と睡眠薬の関係性を見ていきましょう。
睡眠薬と認知症に関する研究は以前から多く存在しており、近年では複数の研究結果をまとめて解析する手法(メタ解析)によってベンゾジアゼピン系の睡眠薬と認知症の間に何らかの関係性があることを示す研究結果が報告されています(Zhong et al., 2015 ; Islam et al,. 2016)。
認知症リスクを高めるという研究結果
Billiotiらの行った地域住民を対象とした前向きコホート研究において、ベンゾジアゼピン系睡眠薬服用群と非服用群を15年間追跡した結果、服用群において認知症発症のリスクが有意に高まることが報告されています(Billioti de Gage et al., 2012)。
この他にもBilliotiらは自研究も含めて1998年~2012年までの10の研究をレビューし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の内服が認知症発症リスクを高めると結論づけています。
この報告の中で、認知症発症の危険性は容量と服用期間に比例して高まり、特に半減期の長い薬剤で危険性が高まることを示しています。
また、過去のベンゾジアゼピン系睡眠薬の服用も認知症発症リスクを高めることが指摘されており、2015年頃には「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の服用は認知症発症リスクを高める」と結論づけられたと考えられていました。
※前向きコホート研究:観察開始時点から一定の期間、アウトカムの発生やアウトカムの予測因子を現在から未来へ時間軸に沿って観察する研究手法。予測因子とアウトカムとの時間的関係が明確であり、複数の予測因子とアウトカムの因果関係の強さを推定できるという利点がある。
明らかな関係性はなさそうという研究結果もある
一方で、2016年にGrayらが大規模な前向きコホート研究を実施し、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の累積服用量と認知症発症に直接的な因果関係が見られなかったことを報告しています(Gray et al., 2016)。
その他にも様々な系統的レビューやメタ解析が行われましたが、明らかな関係性がないか、僅かな関係性しかないという内容の研究報告が多くなっています。
現状の研究成果をまとめると、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は「認知症の発症リスクを高める可能性があるが、結論づけるにはもう少し正確な研究が必要である」という状態です。
BZD睡眠薬には認知機能障害の副作用がある
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、認知機能障害の副作用があります。しかし、この認知機能障害は一時的なものであり、服用をやめれば次第に回復すると考えられています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬を長期的に服用した場合に認知症発症にどの程度影響するかは明らかになっていません。
副作用としての認知機能障害と認知症の関係性について考えられているのは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の服用が間接的に認知症発症に関与しているのではないかということです。
高齢になって軽度認知機能障害が生じている状態(=まだ認知症ではない)でベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用することで、その副作用として生じた認知機能障害がプラスされて認知症発症の閾値を超えてしまうという考え方が妥当であるかもしれません。
結局、認知症予防には何をしたらいいのか
これまで述べてきた通り、認知症と睡眠薬の関係性は明らかになりつつありますが、まだ確実に関連性があるとは言い切れない状態です。
これまでの研究結果から、認知症予防のためには睡眠衛生指導を中心とした非薬物療法が望ましいと言えるでしょう。不眠症を放っておかず、なるべく生活リズムを改善するなどの方法で治療を進めていきましょう。
まとめ
不眠症と認知症発症の関連性や睡眠薬と認知症の関係性について解説しました。
現時点では認知症発症予防にどれほど効果があるかは不明ですが、いずれにせよ不眠症を放っておかずにしっかりと治療をすることは重要です。
当院でも不眠症に対してTMS治療を導入しております。ご興味のある方はぜひ当院にご相談ください。
脳の状態を診断するQEEG検査(定量的脳波検査)【当日治療開始可能】
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。