統合失調症の症状、原因、診断、治療法について
考えや気持ちがまとまらずにモヤモヤする症状が続く場合、統合失調症の可能性があります。今回は、統合失調症の症状や原因、診断、治療法について解説します。
統合失調症とは
統合失調症とは、妄想や幻覚、感情や思考がまとまらないといった症状が続く特徴をもつ精神疾患です。
精神機能は脳内の様々な場所が関係しています。脳内で不調のある場所によって、幻覚や幻聴、被害妄想などの症状が出てきます。この精神機能をまとめる能力がない状態を、脳内の統合が失調している状態=統合失調症といいます。
有病率
統合失調症の生涯有病率は0.3~0.7%と推定されています。
人種や民族、国による有病率のばらつきも報告されていますが、大きくは異なりません。
だいたい100人に1人がかかる病気だと覚えておきましょう。
統合失調症は決して特殊な病気ではなく、学年に1~2人はいるような身近な病気です。
世界保健機関(WHO)によると、統合失調症患者は世界で2100万人以上いると言われています。
男女差
統合失調症全体の罹患率としては女性の方が若干低い傾向にあります。
症状の特徴としては、女性の方が情動性が強い傾向にあり、また、より多くの精神病症状があります。一方で、陰性症状や思考のまとまりの無さの頻度は少ないとされています。
統合失調症の症状
統合失調症の症状は、「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つに分けられます。
陽性症状
陽性症状は、正常な精神機能が過度に高まったり、歪みが生じた場合の症状です。
妄想
- 誰かにずっと監視されている
- テレビで自分の話題が出ている
- SNSでずっと誹謗中傷をされている
幻覚
- 周囲に誰もいないのに命令されたり、悪口を言われる(幻聴)
- ないはずのものが見えたり、いない人が見える(幻視)
- 食べていないものの味を感じる
思考障害
- 思考が混乱し、考えがまとまらない
- 会話が支離滅裂で、何を話しているか自分でもわからなくなる
陰性症状
陰性症状は、正常な精神機能が低下したり、失われたりしたものです。
感情鈍麻
- 感情表現をしなくなる
- 他人と目を合わせない
- 他者に共感しない
- 周囲のことに無関心に見える
思考低下
- 会話の量が少なくなる
- そっけない返事しかしない
- 普通の会話なのに何も答えられない
意欲減退
- 目的を持った行動ができない
- 何事も持続しない
- 集中力が続かない
- マルチタスクができない
快感消失
- 何をしても喜びを感じられない
- 興味関心のあった活動に意欲を感じなくなる
- 目的のない活動に時間を費やす
認知機能障害
認知機能は記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断などの能力を指しますが、これらの能力に障害が見られ、生活・社会活動全般に支障をきたします。
記憶力の低下
- 物事を覚えるのに時間がかかるようになる
- 一度覚えたことをすぐに忘れてしまう
注意・集中力の低下
- 仕事や勉強に集中できなくなる
- 考えをまとめることができなくなる
判断力の低下
- 優先順位がつけられない
- 計画が立てられない
統合失調症の病気の経過
年齢で見る経過
統合失調症の症状は10代後半~30代半ばの間に出現することが多く、青年期より前に出現することはほとんどありません。発症する人の半数がうつ症状を訴えます。
統合失調症を持つ20%の人は良好な経過をたどり、そのうちの少数は完全に回復することが報告されています。
症状は加齢に伴い消退する傾向にあります。これはドパミンの減少と関係している可能性があるとされています。
また、統合失調症の症状のうち、認知機能の低下は改善しないことが多いです。
統合失調症における4つのステージ
統合失調症の症状は人によって様々ですが、一般的には「前兆期」「急性期」「休息期」「回復期」という4つのステージで経過をたどります。
注意したいのは、これらのステージは一方向に進むのではなく、病気を誘発するようなストレスがかかると反対方向(回復期→急性期)に戻ってしまうことがあります。再発が繰り返されると休息や回復に要する期間が長くなっていくと言われています。
前兆期
前兆期には発症の前触れとなる変化が見られます。具体的には以下のような症状です。
- 眠れない(不眠)
- 物音や光に敏感になる(感覚過敏)
- 気持ちが落ち着かない、焦りを感じる
- 気分の変化が激しい
急性期
急性期は、幻覚や妄想などの陽性症状が目立つようになります。頭が混乱して、周囲とのコミュニケーションがうまく取れなくなります。おおよそ数週間単位で症状が見られ、具体的には以下のような症状が見られます。
- 幻覚
- 妄想
- 興奮
休息期
感情の起伏が乏しくなり、何事にもやる気が起きない陰性症状が中心に出るのが休息期です。数週間~数ヶ月単位で症状が見られます。また、些細な刺激で急性期に戻ってしまうこともあります。具体的には、以下のような症状が見られます。
- 感情表現をしない
- 何事にも無気力
- ずっと寝ている
- 引きこもっている
回復期
症状が徐々に治まってきて、無気力な状態から回復してきます。数ヶ月~数年単位で経過します。多くの症状が改善していきますが、認知機能障害が現れることがあり、生活上の障害や社会性への低下へとつながっていく場合があります。
統合失調症の原因
統合失調症の原因ははっきりとは分かっていませんが、環境要因と遺伝要因・生理学的要因が考えられています。
環境要因
統合失調症の発症には、出生の季節が関係していると考えられています。
スウェーデンの研究では、冬から春にかけて生まれると統合失調症の罹患率が高くなることが示されています。妊娠時や出産直後の日光やビタミンDなどへの曝露量が関係していると言われていますが、いまだその原因については明らかになっていません。
また、統合失調症やその関連障害群の罹患率は都市環境で育った子どもにおいて高いことも報告されています。
その他、養育環境を含めたストレスの罹る環境は統合失調症の発症に影響すると考えられています。
遺伝要因・生理学的要因
遺伝要因についても可能性が示唆されていますが、決定的な要因であるとは言えません。
同じ遺伝子を持った一卵性双生児が2人とも発症するわけではなく、2人とも発症する確率はおよそ50%となっています。また、統合失調症を持つ子の両親の9割が統合失調症ではなく、病気が遺伝するわけではないといえます。ストレス耐性など、統合失調症を発症しやすい個人の気質や特性が遺伝すると考えられます。
統合失調症の診断
DSM-5では、統合失調症の診断基準について以下のように定義されています。
A.以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1ヶ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する、これらのうち少なくとも1つは1か2か3である
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(すなわち情動表出の減少、意欲欠如)
B.障害の始まり移行の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)
C.障害の持続的な兆候が少なくとも6ヶ月間存在する。この6ヶ月間の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1ヶ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の兆候は陰性症状のみか、もしくは基準Aに挙げられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されていること
- 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない
- 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期間及び残遺期の持続期間の合計の半分に満たない
E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない
F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1ヶ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる
(出典:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引)
小児期の統合失調症
小児期でも統合失調症を発症することはありますが、その診断は困難なことが多いです。例えば妄想や幻覚といった症状はそれほど複雑なものではなく、健全な空想遊びと区別する必要があります。また、まとまりのない考えやまとまりのない発語は小児期に発症する他の障害にも認められるものであるため、統合失調症と断定することが難しいです。
統合失調症の治療
統合失調症の治療は、薬物療法を中心として、心理社会的療法を行うことが重要とされています。また、統合失調症の二次障害に多いうつ症状の改善にはTMS治療も有効となる場合があります。
薬物療法
妄想や幻覚、支離滅裂な思考といった急性期の症状の改善には抗精神病薬が有効です。
また、休息期以降にも抗精神病薬を継続的に使用することで、再発の可能性を抑えることに繋がります。
しかし、抗精神病薬には以下のような副作用もあり、医師の指示通りに服用することが重要です。
- 眠気
- 筋肉のこわばり
- 震え
- 体重増加
- 不穏
第2世代抗精神病薬は従来のものよりも副作用が少なくなっていますが、副作用が起こらないわけではありません。
心理社会的療法
心理社会的療法によって統合失調症の症状が軽減することはありませんが、患者と家族、医師の間に協力関係を築く上で役に立つ可能性があります。
また、患者本人だけでなく、家族に対しても心理教育が勧められるケースがあります。統合失調症に関する情報や病気に対する対処法を学び、再発防止に役立てる目的があります。
TMS治療
TMS治療は頭部に特殊なコイルを当て、脳に磁気刺激を与えて脳神経のネットワークのバランスを改善し、正常な活動に戻す治療法です。アメリカをはじめとする欧米では普及が進んでいます。日本ではまだ一部の医療機関でしかTMS治療を受けることはできませんが、当院では治療が可能です。
2017年の欧州神経精神薬理学会において、統合失調症の症状の一つである幻聴に対してTMS治療が有効だったという報告がされています。また、統合失調症に合併することがあるうつ症状の改善にはTMS治療の有効性が示されています。
薬物療法と比べ副作用のリスクがほとんどなく、治療期間も短く済むため、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
また、TMS治療について詳細な情報は以下の記事を参照してください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激)は、医療先進国のアメリカのFDAや日本の厚生労働省の認可を得た最新の治療方法です。投薬に頼らずうつ病や発達障害などの治療ができるTMS治療について、精神科医が詳しく解説しています。
まとめ
統合失調症は身近な病気です。根本的な原因は分かっていませんが、良好な予後を迎えるためには発症からなるべく早い段階で治療を開始することが重要です。
気になる症状がある場合は早めに心療内科や精神科等の専門機関を受診するようにしてください。
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15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併
21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併
22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併
8歳女性 学習障害、ADHD合併
技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。