
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の原因は?遺伝性はどれくらいあるのか?【医師が分かりやすく解説】
目次

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)に関する遺伝子やその他の原因について詳しく解説していきます。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の原因は?
近年、ゲノム解析が広く行われ,頻度は低いものの発症に強い影響を与える遺伝子の同定により,患者に共通する発症メカニズムが明らかとなりつつあります。
その結果,遺伝子やエピジェネティックな変化が,発症に強く影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
一般に自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の遺伝率は 50~90%と高いことが知られています。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)は他のすべての精神障害(統合失調症、双極性 障害、不安障害など)と比べて最も遺伝しやすいと言えます。
しかし自閉症の遺伝要因は100%ではなく、あくまで原因の一部を占めているに過ぎないため、親が自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)だからといって、子供にも100%遺伝するとは限りません。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の親から、そうではない子どもが生まれることもあれば、両親とも定型発達の場合でも自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の子供が生まれて来る可能性は十分にあります。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)と遺伝子
ここでゲノムバリアントについて説明します。
一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)とはDNAの中の一つの塩基が別の塩基に置き換わったもので、個人の体質を生む要因の遺伝子の違いです。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の発症の約50%が、頻度が1%以上の一塩基の変化である一塩基多型 single nucleotide polymorphism(SNP)が占めています。
他の10~25%の発症が、1%未満の一塩基変異であるsingle nucleotide variant(SNV)や数千から数百万塩基の欠失もしくは重複によってその領域のコピー数が変化するCNVによるものと推定されています。
(Nat Med. 2016 Apr;22(4):345-61. doi: 10.1038/nm.4071.)
上記の遺伝子はシナプスに関与するものが多いです。
シナプスの異常が脳波の異常として現れます。
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)とエピジェネティクス
クロマチンは遺伝子の発現を調節するタンパク質です。
エピジェネティクスはDNA修飾、ヒストン修飾、およびクロマ チンリモデリングの三つの機序に分類されます。
Nardone氏の研究では、正常と自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の前頭前野と前帯状回のDNA修飾の違いについて調べられています。
前頭前野で5,329 か所、前帯状回で10,745 か所の CpG メチル化領域でメチル化パターンの差異を認めていることが分かっており、神経の可塑性に影響を与えていることが推察されます。
(Transl Psychiatry. 2014 Sep; 4(9): e433.)
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)とシナプス刈り込み
自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)には、共通してみられるシナプス、特に樹状突起スパイン(興奮性シナプスの後部)の異常が指摘されています。
自閉症の原因遺伝子産物として、neuroligin-3/4やneurexin-1(接着分子とそのリガンド、Nat Genet. 34:27-9, 2003; Am J Hum Genet. 82:199-207, 2008)、shank3(PSDタンパク質、Nat Genet. 39:25-7, 2007)、FMRP(RNA結合タンパク質、Trends Neurosci. 27:370-7, 2004)、Ube3A(ユビキチンリガーゼ、Mol Psychiatry 4:64-7, 1999)などシナプスに関わるタンパク質が多数報告されており、それらの変異によってシナプスの形が大きく変化することが分かっています(Proc Natl Acad Sci U S A. 94:5401-4, 1997; Hum Mol Genet. 13:1471-7, 2004; Nat Genet. 39:25-7, 2007; Hum Mol Genet. 17:111-8, 2008)。
脳発達障害にみられるシナプス形態変化
A:正常発達
B:精神遅滞患者
C:精神遅滞患者(重度)
D:脆弱X症候群患者
(Fiala et al., Brain Res Rev. 39:29-54, 2002 より)
生まれたばかりの動物の神経系では、盛んにシナプス形成が起こり、その密度は成熟動物の神経系よりも非常に多くなっております。
成長につれて、必要なシナプスは強められて残存し、不必要なシナプスは弱められ最終的に除去されます。このの過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれており、神経発達の重要な過程です。
生後発達期に起こる神経回路の再編成
ヒトの大脳皮質視覚野のシナプス密度(●)と全シナプス数(○)の発達変化
自閉スペクトラム症、統合失調症患者、健常者のシナプス数を比較
自閉スペクトラム症の患者の脳では生後のシナプス密度が一貫して高くなっており、シナプスの過剰形成と刈り込みの障害が
あることが指摘されています。一方、統合失調症の患者の脳では幼児期~思春期以降にシナプス密度が低く、シナプス形
成は正常な範囲であったものの、その後に過剰なシナプス刈り込みが起こっていると考えられています。
まとめ
遺伝的な要因の関与の可能性が高いことが最近の研究から分かっています。
先天的な遺伝子の要因に環境的な負荷なども組み合わさって、神経ネットワークにバランス異常が症状として出現すると考えられています。
母親の愛情不足などが主要な原因ではないことは明らかですので、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の原因について親が自分を責めて、悩むことはあまり有益ではありません。
15歳男性 ADHD、アスペルガー症候群合併

21歳男性 アスペルガー症候群、不安障害合併

22歳女性 アスペルガー症候群、うつ合併

8歳女性 学習障害、ADHD合併

技術の進歩により、治療前と治療後のQEEGの変化を客観的に評価することも可能になりました。
QEEG検査で脳の状態を可視化し、結果に応じて、薬を使わない治療など個人に合った治療を提案します。